貧困街にワクワークセンターを
──ワクワークセンター建設のスケジュールは?
今年(2013年)9月に着工して、2014年に完成する予定です。建てる場所はロレガというエリア。ロレガとはセブに4つある悪の巣窟といわれているエリアのひとつで、人身売買やドラッグなどが蔓延している貧困街です。人々は安定した収入を得られる仕事もなく、墓地の真ん中にベニヤ板で四方を囲っただけの小屋を建て、墓石をベッドにして寝るという劣悪な環境で暮らしています。そこに現在、5~600家庭が住んでいて、三世代ほど続いています。貧困の連鎖が続いているわけです。
その劣悪な居住環境を改善するために、現地で活動する国際NGOが住民と一緒に3棟のドミトリーの建設を計画しています。すでにそのエリアに住んでいた住民と協力して、1棟が建ったのですが、住むところを手に入れても彼らには安定した収入を得られる仕事がありません。その問題を解決するために、国際NGOと協力してワクワークセンターを建てようとしているんです。
ただ、我々のポリシーは単に作ってあげるという"援助"ではなく、現地の人たちと本当に心からやりたいこと、一緒に見たい未来を一緒に創っていく(Co-Creation)ことです。そこで、まずはロレガ地区に住んでいる人たちに呼びかけて、我々と一緒に夢を実現したいというメンバーを募りました。そして、ドアーズという会社と協働して日本からの参加者を募り、ラーニングジャーニーという新しいスタイルの旅を開催&提案しています。
──ラーニングジャーニーとはどういうものなのですか?
日本人が途上国に行ってボランティア活動をすること自体は珍しくもない話なのですが、我々の進め方が他のスタディツアーやボランティアツアーと決定的に違う点は、まずフィリピン人と日本人、参加者全員のこれまでのライフストーリーをシェアしたり、ダイアログ(対話)を通じて、1人の人間として繋がる、そして目的を共有する。そこからスタートしています。こうすることで、みんな同じ人間なんだ、同じ目的を共有しているんだ、人種や国籍やこれまで育った環境なんか関係ないんだといった感じで参加者全員の信頼関係ができ、メンバー同士の絆が深まり、目的に向かって一致団結できるのです。そして、ジャーニー(旅)なので、その1週間だけでは終わらず、お互いのそれぞれの人生が色鮮やかになるような、同じ目的を持った、信頼できる仲間ができるのです。これを我々はラー二ングジャーニーと呼んでいます。
実際、ロレガのアデルというお母さんは「今までいろんな国の人たちがここに援助に来てくれたけど、私たちの話をちゃんと聞いてくれたのはあなたたちが初めてだ」と涙ながらに語っていました。
すでにこのラーニングジャーニーを何回か重ねていて、2012年のラーニングジャーニーで、ワクワーク・イングリッシュが入っているオフィスビルの1階に地域の人々が集まれるカフェを作ろうということになり、2013年3月8日にワクワークカフェができました。今、ロレガ地区のお母さんたちがそこで働いていて、お客さんもたくさん来てとても賑わっています。
8月にまたラーニングジャーニーを開催して、ロレガの人々と一緒にワクワークセンターの土台を作るダイアログおよびジャーニーを行うことになっています。
──ワクワークセンターの建設にはいくらくらいかかる予定なのですか? また資金はどのように集めているのですか?
土地と建物含めて全部で2000万~3000万円ほど必要なのですが、できれば、セブ市や現地フィリピンの企業さんと協力してつくりたいと考えています。また、現在はユニクロによる子どものためのプログラム「Clothes for Smiles」に選出され、支援を受けることが決まっています。このように今後は現地に進出している日系企業さんともフィリピンのコミュニティと未来を一緒に育てて行けるような良い関係が築ければと願っています。
山田貴子(やまだ たかこ)
1985年神奈川県生まれ。株式会社ワクワーク・イングリッシュ代表。
慶應義塾大学環境情報学部卒、2009年同大学院政策・メディア研究科修士課程在学中に株式会社ワクワーク・イングリッシュを設立。フィリピンの貧困層の若者と一緒に、生まれた環境に関係なく、誰もが夢と自立を実現できる社会を目指してさまざまな事業を立ち上げ中。日本では軽井沢に拠点を置き、地域活性活動に取り組むほか、慶應義塾大学の非常勤講師や「湯河原子どもフォーラム」の講師も務めている。2012年、世界経済フォーラム・ダボス会議により、20代30代のリーダーGlobal Shapersに選出。2013年、第1回日経ソーシャルイニシアチブ大賞の国際部門でファイナリスト選出。
初出日:2013.08.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの