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2017.09.25  取材・文/山下久猛 撮影/林景沢(スタジオアップル)

環境問題を学ぶため、イギリスの大学院へ

──そこから独立されてフリーとして活動を始められたのですか?

丹羽順子-近影3

そうですね。ドキュメンタリストとして活動しながら、森さん繋がりで知り合った、『A』のプロデューサーでもある安岡卓治さんの紹介で、日本映画学校の講師やったりもしていました。映画を作ったこともないのに(笑)。そして、だんだん「もっと世界に出たい」「いろいろなことを経験したい」という気持ちが強くなり、1年ぐらい家に帰らなかったりしていました。結婚しているのにひどい話ですよね。その後、離婚をして、イギリスの大学院に留学することにしたんです。


──それが先ほどのお話のバイトをしていた大学の先生の縁だったのですね。どんなことを学びたくて留学されたのでしょうか。

その頃、もう少し仕事の軸をしっかり立てなきゃいけないと思っていました。そんな中、いろいろな分野で環境問題が取り沙汰されるようになり、関心をもっていたら、その先生が「奨学金も出るみたいだからトライしてみる?」って大学院のプログラムを薦めてくれたんです。そして試験に無事合格し、30歳の時にイギリスに渡って、環境問題について学ぶことになりました。

サスティナブルとリーダーシップを学ぶ

──具体的にはどのようなことを専攻されていたのでしょうか。

ひとくちに環境問題といってもすごく広いじゃないですか。私は、生物学や科学的なことということよりも、持続可能な社会にするために、企業や地域、NPOや学校で何をするかという「サステナビリティ」と「リーダーシップ」を学びました。日本とイギリスの両方の企業、行政、NPOでインターンを経験し、最後にジュネーブにある国連組織でインターンをして終了というコースでした。だから座学じゃなくてかなり実践的なプログラムだったんです。この1年の留学で、大学を出ているのに世界がどんなふうに動いているのか全くわかっていなかったことを痛感しましたね。あのプログラムに参加できたのは本当にラッキーなことでした。

帰国後はドキュメンタリー映像の制作などを行っていました。でも帰国したばかりのころは、焦っていた面もあったかもしれません。どんどん悪化する地球環境に対して何もできてない自分に対してジレンマを抱えていて。周りにも自分の考えを押し付けるような、うっとおしい人だったと思います(笑)。それでも「よし、これから頑張っていくぞ!」と気合いが入っていたその矢先に、妊娠したんですよ。出産した時、人生観、価値観などが一変しました。

もう何も作り出さなくていい

──具体的にはどのように変わったのですか?

丹羽順子-近影4

自分の身体から新しい命を産み出すって、これ以上クリエイティブなことはないですよね。だからもうすべて満たされてしまって、これまでは割と攻めるタイプの人生を送ってきたのに、上昇志向とかなくなりましたよね。もう何もクリエイトしなくてもいいというか、もう何かしなくちゃとか、誰かに評価されなきゃといった気持ちもきれいさっぱり消えて、何もなくても幸せを感じるようになりました。

そして、出産を機に鎌倉を拠点にして地域活動を始めるようになったんです。


──鎌倉を選んだ理由はなんですか。

海も緑もあって、東京にも近いから仕事もしやすいので、縁もゆかりもなかったものの、鎌倉ならのんびり子育てできるのではと思ったからです。


──鎌倉で子育てをしながら留学時代に学んだ内容を実現しようという気持ちだったのでしょうか。

いえ、鎌倉では子育てに専念しようと決めました。これまではずっと何かを求めて走ってきていたので、ここで立ち止まる時なのかなと思ったんです。そこで、同じように身の丈に合った暮らしを地域コミュニティでつながり合って作っていくことにしました。「かまわ」というNPOを仲間うちで立ち上げたんです。


──「かまわ」ではどのような活動を?

「鎌倉無銭旅行」といって、全部物々交換で成り立たせる企画を行いました。たとえば、カフェでご飯を食べた時、皿洗いをしたら無料になる、といったような形です。最初は商店街の人たちも、商売に影響を及ぼすと言って反対していたのですが、だんだんノッてくれて。お店同士の交流が生まれたり、お金の価値を考えさせられた、という声もありました。ブログに書いて発信していると、「うちの媒体で連載してください」と声がかかったり、エコイベントの司会の依頼が舞い込んだり。そんな仕事をしながら子育てをしていました。

また、自分では「xChange(エクスチェンジ)」という、ファッションアイテムに特化したフリースタイルの物々交換会を始めました。これは完全に思いつきで始めたものだったんですよ。普段から、地域のお母さんたちは子育てに忙しくてあまり買い物にも行けないことに悩んでいました。自分で洋服を作ろうと思っても、環境にどれだけの負荷がかかるのかというのは大学院時代によく勉強して知っていましたし。おしゃれをしたいのにどうしたらいいのだろうと思っていました。そんなときにイベントをやるという友達から、「何かイベントで出し物ない?」と相談されたんです。そこで「服の交換会をするのはどう?」と提案して始まったんですよ。やってみたらすごく楽しくて、大盛況だったんですよね。これまで本当にいろいろなことをやってきましたが、私の活動の中で唯一続いてるものです。

でもそんな鎌倉での満たされた生活もある日突然終わりを迎えました。3.11の東日本大震災の発生によって。


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丹羽順子(にわ じゅんこ)

丹羽順子(にわ じゅんこ)
1973年神奈川県生まれ。平和環境活動家

慶應義塾大学卒業後、NHKに入社。報道記者として3年間勤務した後、退職。日本映画学校で講師をしつつ、ドキュメンタリー映像制作にも携わる。2003年、イギリスのミドルセックス大学院に1年間留学。持続可能な開発とリーダーシップコース修了。帰国後、フリーランスのサスティナビリティー活動家としてドキュメンタリー制作やイベントMC、各種講師など様々な分野に携わる。2006年、長女を出産。鎌倉を持続可能にするNPOかまわなどで地域活動を展開ほか、オシャレな古着の交換会xChangeを主催。J-WAVEのLOHAS SUNDAYのナビゲーターも務める。2011年、東日本大震災を機に家族で鎌倉を離れ、西日本を放浪後、香川で半年間ほど暮らす。2012年、タイに移住し1年半ほどの自給自足生活を送る。その後、娘とコスタリカへ移住。現在は10歳になる娘と愛犬チョコ、フランス人のパートナーとともに大自然に囲まれた場所に暮らし、自身の心、みんなの心に平和の芽を育てる活動を続けている。著書に『小さいことは美しい』(扶桑社)、『深い愛に気づく女性のためのヒーリング』(ブルーロータス・パブリッシング)などがある。

初出日:2017.09.25 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの