母校の教員に
24歳くらいの時、母校の水産高校からダイビングやヨット、カヌーを教える教員、正確には非常勤の「実習助手」をやってみないかという話をいただきました。司会の仕事は楽しかったのですが、一度経験したし、やっぱり海の仕事の方が自分には向いていると思い、実習助手になることにしました。母校では実習だけじゃなくてサザエやアワビの栽培漁業も担当することになったのですが、一日中屋内でサザエやアワビの面倒を見なきゃいけなくて、それがすごいストレスで。いつも太陽の下で仕事がしたい! と思っていました。
実はダイビングショップで働いている時に漁師さんと知り合って、何回か漁船に乗せてもらって漁を体験させてもらったことがあるんです。その時、すごく楽しいな、こんな仕事ができたら幸せだなと思っていたんですが、女では無理だなと思っていました。でも母校に勤めている時にたまたま鎌倉の女性漁師と知り合って、女性でも漁師になれるんだと衝撃を受けました。それで母校の教員をしつつ、半年ほどその女漁師の船に乗せてもらっていたんです。学校との契約期間が終了しても乗せてもらっていて、彼女から鎌倉で漁師をやらないかと誘われた時、漁師の魅力に取りつかれていたので、すごくやりたいと思いました。でも漁師をやるなら生まれ育った葉山でやりたいなと思い、その誘いは断って、昔からの知り合いだった現在の師匠に漁師になりたいから弟子にしてくださいとお願いしに行ったんです。
ベテラン漁師に弟子入り
──師匠はすんなり受け入れてくれたのですか?
最初は本気にしてくれていなかったので、改めて私は本気で漁師になりたいんだとお願いすると、よしわかったと葉山の漁業協同組合の事務所に一緒に行って組合長に話をしてくれました。でも、私は組合員の漁師の身内でもなく、師匠以外に誰も知り合いがいなかったこともあり、私が本気で漁師になりたいのか疑わしいと思われていました。さらに葉山にはこれまで女性の漁師はいなかったので、女の漁師なんてダメだと反対の声も多かったようです。ですので3回くらい葉山漁協の事務所に行って、本気で漁師になりたいんですと思いの丈をぶつけました。師匠も組合長や県の役人と交渉してくれた結果、まずは1年間ちゃんと修業することを条件に、2012年3月、26歳の時に正式に弟子入りが認められ、見習い漁師になることができたんです。それから毎日師匠と一緒に漁に出て、刺し網の仕掛け方からワカメの切り方まで、実践を通して指導していただきました。漁が終わったら、日々実践したことや学んだ点、反省点などを毎日日記に書いて提出していました。1年間、このような修業をしたところ、葉山漁協から認められ準組合員になることができたんです。
畠山 晶(はたけやま あきら)
1985年神奈川県出身。漁師(葉山町漁業協同組合正組合員)
神奈川県立三崎水産高等学校(現・神奈川県立海洋科学高等学校)を卒業後、ダイビングショップのスタッフ、母校の教員、結婚式の司会業などを経て2011年、葉山のベテラン漁師・矢嶋四郎氏に弟子入りし見習い漁師に。2013年、 葉山町漁業協同組合の準会員、2015年、葉山町漁業協同組合の正会員として認められ、葉山漁協で初にして唯一の女性漁師に。年間を通して海に出て、刺し網漁、ワカメ漁、潜り漁などを行っている。2013年12月から漁師仲間に呼びかけて、自分たちで獲った魚介類を販売する朝市を真名瀬港で開始。好評を博している。
初出日:2017.01.06 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの