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2014.11.17  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

ワークとライフは一心同体

──ワークライフバランスについてはどのように考えていますか?

まず大きく自分の人生というものがあって、その中に生活、仕事、旅行、家族、友達などがあるので、そもそもワークとライフのバランスを考えるということはしていません。例えば出張もずっと仕事をしているわけではないので旅ともいえるし、その中で商品開発をする上での新たな発見があれば仕事につながりますよね。また出張には社員を連れて行くこともあるのですが、一緒に仕事をしているともいえるし、仕事のほかにも地域の食べ物を食べたり、日本酒を飲んだり、地域ならではのお祭や、歴史的な場所を訪れたり、さまざまなものを見て、体験して、感じることで美的センスも磨かれます。だからライフからワークを取って、この大きなライフとその中に本来含まれている小さなワークを並べることはできないと思います。


──では矢島さんにとって働くということは?

生きることそのものですね。


──「和える」のWebサイトに、「和えるではみんなが自分の得意を活かした働き方をしています」と書かれてあったのですが、これはどういう意味ですか?

私たちは少人数のベンチャーなので、1人がやらなければならない仕事は複数の職種にまたがりますが、なるべくその人に向いていそうな仕事をメインに担当できるように割り振るよう心がけています。

この仕事は自分よりもあの人の方が得意だから任せよう、でもこの仕事は自分が得意だから率先してやろう、という感じで、全員がお互いの能力・適性・スキルを認め合い、相互補完できるような、お互い様の循環が起きる会社にしたいのです。苦手なことよりも得意なことを伸ばした方が会社全体としても良い結果がでると思うのです。

和えるのスタッフと一緒に

──矢島さんのこれまでのお話をうかがっていて、順風満帆な感じがするのですが、挫折感を味わったことなどはないのですか?

もちろんやりたくてもできなかったことや失敗したことはたくさんあります。そんなときは一度は落ち込みますが、すぐにこの失敗があったから学べたことを考え、その失敗を次に活かすことができれば、それは成功につながるのです。

常に道の途中

──今後の具体的な事業展開は?

現在まさに準備中なのですが、2016年から2017年くらいに京都にもう1店、aeruの直営店を出店したいと考えて準備を進めています。『aeru kyoto(仮)』ですね。京都なので町屋をお店にしたいと思っています。東京の目黒駅徒歩3分のところにオープンした『aeru meguro』は、和える君のお家。『aeru kyoto(仮)』は、和える君のおじいちゃん、おばあちゃんのお家をイメージしています。


──矢島さんが目指している究極の目標は?

私は小さい頃から伝記が大好きで、小学校3年のとき図書室にあったキュリー夫人やライト兄弟などの伝記マンガを全部読みました。それがとても楽しくて私も将来、彼ら彼女らのように、伝記になるような人間になりたいと思ったのです。

その理由は、伝記に載っているみなさんは、人々の役に立つ発明や、物事の考え方などを考案した方々ですが、最初から人のために役に立ちたいということを目標に頑張ったわけではなく、突き詰めると自分が楽しいからやっていたと思うのです。まずは自分の興味関心から入って、やっているうちにどんどんおもしろくなって一生懸命頑張った結果、人類や社会のためになっていた、人びとのライフスタイルを変え、新たな文化を生み出すことになったという人の一生の物語。その生き方ってとってもおもしろそうだなと思って、私も彼ら彼女らみたいな生き方をしたいと思ったのです。

例えばマリー・キュリー氏はラジウムを発見してX線検査ができるようになりました。これは病気を早期発見できるというライフスタイルを生み出しました。その結果、医療業界でX線を使うことは当たり前の文化になりました。ライト兄弟も飛行機を作ったことで新しいライフスタイルを生み出し、それが今では全世界の人が移動するために飛行機を使うようになったことで、一つの文化になっています。

和えるが今取り組んでいることは、日本の伝統産業を新しい視点で捉え直すことによって新たなライフスタイルを生み出すことです。最終的には、それが文化にまで昇華したらうれしいです。

ですので、永遠にゴールはあるようでない、常に道の途中みたいな感覚です。もちろん常に短いゴールを設定していますが、本当の意味での人生の最終ゴールは、自他共に文化を生み出したと思えるときでしょうね。文化を生み出したという手応えを感じながら人生を終えることができれば最高ですね。そのためにも、日々、仲間とともに、まずは自分たちができることから一歩ずつ、丁寧に着実に進んでいきたいと思います。これからも、どうぞよろしくお願いします!

矢島里佳(やじま りか)
1988年東京都生まれ。株式会社和える(aeru)代表取締役。

職人の技術と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「21世紀の子どもたちに、日本の伝統をつなげたい」という想いから、大学4年時である2011年3月株式会社和えるを設立、慶應義塾大学法学部政治学部卒業。幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、子どもたちのための日用品を、日本全国の職人と共につくる“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げる。また、全国の職人とのつながりを活かしたオリジナル商品・イベントの企画、講演会やセミナー講師、雑誌・書籍の執筆など幅広く活躍している。『青森県から 津軽塗りの こぼしにくいコップ』『福岡県から 小石原焼の こぼしにくいコップ』が2014年度グッドデザイン賞を受賞。 2013年3月、慶應義塾大学院 政策・メディア研究科修士課程卒業。2013年末、世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤング・グローバル・シェイパーズに選出される。2014年7月、書籍『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』を出版。

初出日:2014.11.17 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの