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2013.10.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

さまざまなスタッフに支えられて

──現在スタッフは何人いるのですか?

保育士スタッフの皆さん

手伝ってくれている人は全部で60人ほどいますが、全員が保育士や児童精神科医などの専門家ではありません。保育士は30人弱です。その他は、子どもに関わりたいという学生や会社員や、親になる前に子どもの世界を知りたいという人、元々参加者からスタッフになったママなどもいます。

手伝いたいけれど子どもに関わったことがないという人たちには、最低限のルールとして子どもとの目線の合わせ方、声の上手な掛け方など、現場で私がちょっとしたアドバイスをしています。初めは不安があるようですが、始まってしまえばもう子どものパワーの虜になってしまうようです。

スタッフの方たちは基本的にボランティアで関わってもらっていますが、みなさん「楽しいから」「元気になるから」「勉強になるから」と手伝ってくれています。私1人ではできないことなので、本当にありがたいことです。せっかくたくさんの大人がいるので、自分の得意なことを子どもたちと一緒にやってもらったりもしています。この時も大事にしていることは、「教える」ではなく「楽しむ」ということ。大人が好きなことを楽しんでやる姿を子どもたちに見てほしいんです。そうすると大人にもいいことがあり、子どもたちに認めてもらったということで自信につながる。私が感じた子どものすごさを、他の大人たちにも体験してもらえたらなと思っています。

また、保育士は子どもと関わる大人として、一番大切な時期に子どもと接する仕事なので、私たちも視野を広げたり勉強する努力を惜しまないよう心がけています。スタッフ研修をしたり、保育士スタッフたちとは専門家としての勉強会を行っています。

キャストと呼ばれるスタッフの育成にも力を入れている>

高いリピート率

「asobi基地」に参加してくださった方はリピート率が高く、どんどん参加者が増えています。お母さんたちは「asobi基地」で仲良くなって一緒に遊びに行ったり、お父さんたちが「子どもに音楽を聞かせたい」とバンドを組んで練習していたり、所々でコミュニティが発生しています。大人同士にもつながっている感があるのも、とてもうれしいですね。


──告知や募集はどんなふうに行っているのですか?

毎回告知を行うとすぐに満員になるのですが、特に参加者を募集するために何かをしているわけではありません。とにかくリピーターが多いし、1度参加した人が友達を連れてくるので口コミでどんどん増えているといった感じです。「Facebookで友達が投稿したイベントの様子を見て興味をもった」という人も多いですね。最近では8月にasobi基地の公式Webサイトを作ったので、こちらからの申し込みも増えています。

「こどもみらい探求社」とは

──「asobi基地」は今後もどんどん大きくなっていきそうですね。

はい。確かに「asobi基地」というコミュニティは広がりつつありますが、それだけではまだまだ不十分です。私たちだけではなく、社会をつくっている人たちと協力しなければ、社会の現状を大きく変えることは到底できません。もっと企業や社会に対してアピールして、一緒に手をつなぎながら「本当に子どもにいい」コト・モノをつくり、サービス・デザインを世に出していければと思っています。そのためには個人では限界があるので2013年6月に保育士の小竹めぐみさんと一緒に合同会社「こどもみらい探求社」を設立しました。小竹さんは2010年に「オトナノセナカ」を一緒に立ち上げた"同志"です。現在、私は「オトナノセナカ」からは卒業させてもらい、「asobi基地」の活動に力を入れています。根本的に共有している「子どもたちのために社会をよりよく変えたい」という思いは少しも変わっていないので、また一緒に活動しようということになったんです。


──「こどもみらい探求社」ではどんな活動をしているのですか?

「こどもとおとなの持つ力を最大限に活かしあえる社会をつくる」をミッションとして、
● 子育てに関する人材の育成
● 子育てコミュニティの育成
● 子ども、親子のための室内空間デザイン
● 子どもに関するイベントの企画および運営
● コンテンツ・商品企画
などに取り組んでいます。


──「こどもみらい探求社」における、ふたりの役割分担は?

人に教えることが得意な小竹さんには研修や人材育成などを担当してもらっています。私はイベントやコンテンツを考えるのが好きなので企業とのコラボ企画を立てたり、それを広く告知する広報的な仕事をしています。お互いの強みを生かしているので、いいチームワークで仕事ができています。2人がもうすでに多様性のコミュニティをつくっているんです。


──「asobi基地」でもそうですが、ユニークな企画をよく次から次へと考えられますよね。

友達にも「その企画力すごいよ」とよく言われるのですが、私はこの世界全体を保育園の敷地としてとらえているので、「asobi基地」のコンテンツとしてライブハウスで音楽をやったり、小学校の家庭科室で料理をやったりするのは、当たり前の発想なんです。いわば家族みんなで楽しめる授業のようなものを常に考えているんです。

保育士はその場の状況で判断し、対応しなければならず、またとないその瞬間をデザインすることが常に求められます。いわば、毎日、そして瞬間一つひとつが企画の仕事なんですよね。このことも保育士がもっと社会で活躍できると思う理由のひとつです。

さまざまな企業とコラボ

企業とコラボする「こどもみらい探求社」の活動のひとコマ

──「こどもみらい探求社」ではこれまでにどんな仕事を手がけたのですか?

例えば、イベント企画では、シングルマザー・ファザーに新しい出会いの場を提供するため、ある企業の婚活パーティーの企画とコラボして、「asobi基地」を併設したお見合いパーティーを開催しました。これならお母さんやお父さんはお見合い会場に子どもを連れて行けるし、相手の方も子どもを含む家族を見ることができ、さらには素の子どもを見ることができます。また、マンションコミュニティづくりの一環として、親子の七夕イベントを企画し、子どもたちが短冊をつくるのと同時に大人たちは「居心地」について対話をしました。人材育成の事例では、保育士養成の専門学校で学生たちへの講義や「asobi基地」の企画・実施をしたり、企業内の社員研修での講師などを行いました。まだ立ち上げたばかりの会社ですが、ありがたいことにいろいろな企業様から少しずつビジネスのお話をいただいています。

親子の七夕イベントにて

来年(2014年)2月には、子どもの人権を考えるシンポジウムを企画しています。子どもの人権条約に日本も批准していますが、とてもそれを守っているとは言いがたい状況です。そうした問題点について、お母さん、お父さんや子どものいる場所で、保育士、企業家、政治家、行政の方たちなど、さまざまな業界・職種の人たちを巻き込み、意見交換をし、世の中に子どもの人権についてのメッセージを発信していきたいと思っています。毎年、このシンポジウムは当社の大きな取り組みの一つとして実施していきたいと考えています。

小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社「こどもみらい探求社」共同代表。

大学卒業後、数社を経て、2010年、子どもたちの素敵な未来を創るために、「オトナノセナカ」(2013年6月にNPO法人格を申請)の立ち上げに関わる。2011年、「まちの保育園」の保育士としてオープニングから勤務。2012年6月には、子ども視点で社会にイノベーションを起こそうと「Child Future Center」を立ち上げる。同年7月には新しい子育て支援の形として「asobi基地(2013年8月にNPO法人格を申請)」をスタート。2013年6月、「オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子どもたちにとって本当にいい未来を探求するために奮闘中。

初出日:2013.10.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの