すべての依頼を受けるわけではない
──それだけ丹念に取材して書く分量も多いと、一件につきかなり時間がかかりそうですね。
はい。取材から掲載まで2~3週間はかかります。求人票に諸条件などの必要事項を書けばすぐ掲載できると思っている人も多いのですが、そのようなリクエストに応えることは不可能です。また、中には仕事百貨ではお役に立てないと思うような求人案件もあります。その場合は正直に伝えてお断りします。そういうケースも少なからずありますね。お金さえいただいたらどんな求人でも掲載するわけではないというのも、他のサイトとの大きな違いかもしれませんね。
──他の大手求人サイトのように、採用が決まったら別途報酬を請求するということはないのですか?
成功報酬はいただいていません。もしそれをしてしまうと、強引にでも採用を成功させようとして、編集するときに無意識にバイアスが働いてしまう危険性が生じてしまうからです。その結果、ミスマッチが起こるかもしれない。それだけは絶対にしてはならないことなんです。
もちろん、成功報酬をありにしても、うちの場合はそうはならないという自信はありますが、今月どうしてもあとひとり決めたいという状況になったときなど、スタッフ全員が絶対に少しも揺らがないとは断言できません。人間って弱い生き物ですからね。だから僕らはあくまで求人広告として広告料のみをいただくというスタンスでやっているんです。
──求人広告の掲載期間はどれくらいなんですか?
2週間です。だいたい1件の求人に対して平均で32人の応募があります。しかも普通の求人サイトよりも文章が長く、それを全部読んだ後にようやく主要条件にたどり着けます。サイト内で検索する機能もあえてつけていませんし、ある程度しっかり会社や仕事のことを理解しないとエントリーできない仕組みになっています。会社のことがよくわからないままエントリーする人はほぼいません。ゆえにほとんどの求人企業が2週間ほどで採用したい人に出会えているのです。
しかし、例外的に、応募者数が少ないときには無償で掲載期間を延長したり、もう少し様子を見たいという会社に対しては有料で延長、再掲載をすることもあります。その辺は柔軟に対応しています。
社名に込めた思い
──中村さんは独立して2年後の2009年10月に株式会社「シゴトヒト」を設立していますが、法人名を「シゴトヒト」にした理由は?
ひとことで言えば、仕事と人の間に立って、両者をつなげることを基本的な事業にしたいと思ったからです。事実、「仕事百貨」を含め、現在僕らが手がけているのはすべて仕事と人をつなげるプロジェクトです。
「シゴトニン」となると急に職人的な、あるいはワーカホリックなイメージになっちゃいますよね。「シゴトビト」でもなんかしっくりこない。「シゴトヒト」なら仕事と人の関係性がフラットで中性的で音的にもいいかなと思って。
──中村さんの経営理念、あるいは経営哲学は?
正直、「経営理念」としてあまり深く考えたことはないですが、大事にしていることとしては例えば、代表の僕含め現在契約しているそれぞれのスタッフが自分の意志で自由に働くというのがあります。
経営者として持続可能な事業をしていかなければならないと思っていますし、そのためにはお金が必要なのはよくわかっています。でも、何よりも重要なのは、その事業を自分たちがやりたいことかどうかです。本当にやりたいと思うことなら儲からなくてもやるというスタンスです。
また、経営理念とは違うかもしれませんが、仕事をする上で大切にしていることは、利用者も自分も裏切らないということです。特に自分を。お金さえいただいたらどんな求人でも掲載するわけではないというのも、自分に嘘をつきたくないからです。最終的な決裁権は自分たちにあるという、自分のことを信じることができるような働き方なので、精神的に非常に健康でいられます。自分の仕事に納得できますからね。
そんなスタンスで仕事をしていると急激な需要の広がりはないでしょうけど、少しずつでも着実に確実に広がっていくと信じています。だから今後もそこだけはぶらさないでいこうと思っています。
中村健太(なかむら けんた)
1979年東京都生まれ。株式会社シゴトヒト代表。
明治大学大学院理工学研究科建築学専攻を卒業後、不動産会社ザイマックスに就職。不良債権処理、大型複合商業施設の開発・運営などを経験後、2007年28歳のときに退職。2008年8月、生きるように働く人のための求人サイト「東京仕事百貨」(現「日本仕事百貨」)をオープン。「自分ごと」「隣人を大切にする」「贈り物」な仕事を、全国各地で取材し紹介している。2009年10月1日株式会社「シゴトヒト」設立。現在はまちおこしなどのディレクター、東京に町をつくる「リトルトーキョー」など各種プロジェクトやメディアのプランナー、キャリア教育などに関わり、「シブヤ大学しごと課」ディレクターや「みちのく仕事」編集長も務めている。
初出日:2013.07.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの