大学院卒業後のキャリア
──大学院を卒業してから現在まではどのような仕事をしてきたのですか?

卒業後は東京都庁に非常勤の学芸員として採用されました。学芸員になるという最初の夢が叶ったわけです。基本的に都庁に勤務して、東京大空襲関連の資料の整理をしていました。非常勤で週4日勤務だったので、山の修行もしつつキャリアを積んでいずれは正規職員の座を狙おうと思っていました。でも4年くらいが経った頃、学生時代から付き合っていた彼女と結婚することになったので、正規雇用を目指して辞職。資料保存のためのマイクロフィルムの撮影、スキャニング、電子化などを手がける会社に正社員として入社しました。職種は営業で、博物館や学校、官公庁などを回っていました。
その会社には7年半勤務したのですが、40歳を迎えるのを機に、山伏として活動しながら生計を立てるためによりふさわしい仕事は何かと考えました。今までの山伏としての生き方と少しでも関わりのある仕事に就きたいと思ったのですが、具体的な仕事はなかなかイメージできなかったんです。それで当時、僕が加入していた生命保険のライフプランナーに相談してみました。ひと通り話を聞いた後、彼は「東さん、生命保険っていつ支払われるものですかね?」と聞いてきました。そのとき「何を当たり前のことを。死んだ時に決まってますよね」と答えたのですが、その瞬間、「あ!」と雷に打たれたような衝撃を受けました。そうか、人が亡くなったらお金が支払われる生命保険の仕事って、神聖といえば言い過ぎかもしれないけれど人の人生にとってすごく重要な部分に触れる仕事なんじゃないかと思ったんですね。だからそもそも生命保険会社って次の仕事としては全く選択肢になかったのですが、この道を行くのは間違っていないんじゃないかと思い、2013年にライフプランナーになったんです。
──生命保険会社の社員としては毎日どんな感じで働いているのですか?
僕は生命保険会社の社員ではありますが、完全歩合制なので個人事業主のようなもの。一般的な会社員の方とは違い、定められた出社日を除き、出社義務や定時がなく、結果さえ出せば基本的に働き方は自由です。その結果を出すことが難しいわけですが。

働く時間は日によって全然違います。お客様とのアポが朝一のときは朝早く家を出ますし、昼からのときもあります。そこはお客様のご都合次第ですね。ただ、僕はサラリーマン時代が長かったので、あまり自由な働き方は性に合わず、基本的に会社に行くことにしています。だいたい毎日4時半から5時には起きて6時前に家を出て会社に行き、お客様の会社やご自宅を周り、帰宅します。帰宅時間もまちまちで、子どものお迎えがあるときは早めに帰るし、夜のお付き合いがあるときは遅いですね。このへんも自分で調整できます。
一般的な会社員との最大の違いは仕事のメインが土日だということです。やはりお客様の大半を占める会社員の方々にお時間を取っていただき、じっくり人生や保険の話をしようとすると土日しかないからです。ですから土日のスケジュールが空いているとやばいと思います(笑)。というか土日に限らず平日でもアポが入っていないと焦りますよね。働いている方が全然楽です。これはこの業種・職種ならではでしょうね。
──土日が仕事だと家族サービスができないのでは?
確かに小学校に上がったばかりの娘と1日じっくり遊ぶということは難しいのですが、前職と比べると家族といる時間は増えました。妻もイラストや漫画の仕事をしている個人事業主ですし、僕の働き方も自由度も高いし、平日を休みにすることも可能ですしね。
──完全歩合制に対するプレッシャーは?
まだライフプランナーになって2年で経済的に楽になっているとは言えない状況なので、プレッシャーがないわけではありません。でもやればやっただけ結果はついてくるので、やるしかないという思いで仕事に取り組んでいます。
<$MTPageSeparator$>人生の伴走者
──仕事をする際に心がけている点は?

いきなり保険商品の説明から入るということはありません。大事なのはお客様の人生に寄り添って、お客様が望む生き方を実現すること。そのために、僕らが手助けできることはないかということを考えます。つまりライフプランナーとはいわば人生の伴走者なんです。ですからその人がどういう人生をお望みなのかがわかるまで何度も面談を重ねてライフプランを一緒に考えます。保険の話が出るのはその後ですね。お子さんや奥さんなど守るべきご家族がいらっしゃる方だけではなく、例えば若くて独身で将来起業したいという夢をおもちの方の場合は起業資金を貯める方法を考えることもあります。ですから基本的にいわゆる生命保険という範疇だけではなくて、その方の叶えたい夢を実現するための手段として生命保険を活用していただくということが多いですね。
僕は仏教を勉強して得度もして山伏でもあるので、人びとの現世利益であるお金を増やすというお手伝いもしつつ、契約者が亡くなったとき心置きなく成仏していただくためにもご家族をお守りできるだけの保険を作りたいと思っています。
──ご自身のライフプランも立てているのですか?
当然立てています。でも人の考え方や望むことなんてその時々で変わるし、人生何が起こるかわからないから、ライフプランもその時々に応じて変えるべき。とらわれてはいけません。事実、僕が最初に立てたライフプランと今では全然違います。お客様にも「ここにあなたの考え方や価値観をまとめましたが、あくまでも今日の時点のものです」と言っています。
人生=修行
──働き方で大事にしていることは?
働き方について意識したことはあまりないですね。人生=修行なので、働くこともまた修行であり、生きることが仕事。それくらい密接になりたいししたいと思いますね。
──仕事のやりがいや魅力はどんなところにありますか?

先程もお話しましたが、そもそも、ライフプランナーという仕事を働き方の自由さとか完全歩合制で選んだわけではありません。大事なのはどれだけ人に貢献できるか。その中でも個人的な付き合いができるのが保険業。だからお客様との付き合いを保険だけに限定したくないと思っていて、メルマガを発行するなどして保険以外にもいろんな情報を提供しています。あと、仕事柄多種多様な方々と知り合うことができるので、「この人にこの人を紹介したらお互いに喜ばれそうだな」と人と人とをつなぎ合わせることもしています。それも楽しいですよね。仕事を通じて、仕事を超えた付き合いができることがこの仕事の魅力です。また、経営者と話すことも多いのでたくさんのことを学ばせていただいています。仕事はまさに里の行なんだなと思いますね。
このように人の人生の重要な部分に触れてお役に立てて、自分自身にとっても得るものが多いので、仕事に対しては失礼な考え方かもしれませんが、ライフプランナーはボランディアでもやりたい仕事だと思っています。僕の話を聞いてくださった人の人生をよりよく変えるために、その人自身と大切な家族を守るために全身全霊を懸けるという覚悟で仕事をしています。
<$MTPageSeparator$>「道心の中に衣食有り」

──仕事人として目指している理想像はありますか?
僕はまだ保険金のお支払いを経験していないのですが、そのときが訪れたら契約者のお葬式に出てお経を上げて、遺族の方に「ご主人は亡くなったけれど今後のご家族の生活には何の心配もいりません」と言えるライフプランナーになりたいなと本気で思っています。そうしたら亡くなった契約者も経済的に家族が困らないから往生できると思うんです。
また、基本的に僕らは報酬を会社からいただいているという認識はなくて、お客様がお支払いくださる保険料の一部をいただいているという認識なんですね。ですからライフプランナーは皆様に生かされている存在だと思っています。同時に報酬額が大きいということはそれだけたくさんのお客様に信頼されているという証拠なのでもっと頑張らないといけないとも思います。
僕の好きな言葉で「道心の中に衣食有り」というのがあります。天台宗の開祖、最澄が言ったとされる言葉で、「一所懸命修行をしていれば、着るものや食べるものは自然とついてくる」という意味です。修行=生活=仕事だと考えたときに、ただ生きているだけじゃなくて一所懸命修行に励んでいれば生活の心配はないだろうという、能動的な点が好きですね。
とにかく一歩踏み出す
──東さんは大学・大学院進学時や、得度をして山伏になるとき、転職するときなどけっこう大きな人生の岐路でそれほど悩んだりしなかったようですがそういう主義なのですか?

確かに人生の節目に立った時、あまり深刻に考えず、勢いとか「何となく」で決めることが多いですね。その道に入ってやっていくうちに段々いろいろなことに気づいていくというパターンが多かったなと。「何となく」で決めたら後で必ず痛い目にあうことが多いです。でも助けてくれる人も必ずいて何とかなるもんなんですよ。僕もある意味勢いで保険業に飛び込みましたが、保険や人の大切さなどこの仕事をして初めて気づけたことがたくさんあります。だから世の中にはあれこれ考えて一歩踏み出すことができない人も多いのですが、そのままだと何も変わらないので、あまり深く考えず、取りあえずやってみた方がいいんじゃないかと思いますね。よく山伏になるにはどうすればいいんですかと聞かれるんですが、山伏になると決めることと答えています。
<$MTPageSeparator$>人生に正解はない
──では何となく入ったわけですが、修験道の世界に入ってよかったと思いますか?

はい。これは間違いなく即答できますね。自分が目指していた仏教や修験道の世界で気づけたこともたくさんありますし、何も考えずふらふら酒を飲みながらギターを弾いてた学生時代に比べれば、一本芯のようなものが通った、少なくともどんな扱いを受けても自分の中で崩れない部分はできたと思えるので。まだまだ修行中の身なので偉そうなことは言えないのですが(笑)。
──人生の夢や目標は?
僕には「家族を幸せにする」という人生の命題があります。ちょっと欲張りなのが自分の家族だけじゃないというところなんです。
──家族というのはご自分の家族のことだけではないんですか?
もちろん僕自身の家族も含まれますが、それだけではなく、出会ったすべての人の家族、仏教の世界ではご縁といいますが、ご縁のある方皆さんに幸せになってもらいたいなと思っています。それは山伏としてライフプランナーとしても同じで、東に出会ったことで人生がよくなったと言ってもらいたいと思っています。
──いろいろとお話をうかがうと、山伏と現在のお仕事は意外とリンクしているんですね。?

そうなんです。僕はまだ修行不足でそこがうまくまとめられていないのですが、両者はかなり強く結びついているような気がするんです。山伏としてその人たちの幸せが成就するために修行を積むわけですが、ライフプランナーとしても仕事をする上でいろんな勉強をさせていただいています。自らを高める努力をしつつ、身につけた能力で少しでも皆さんのお役に立ちたいという考え方がライフプランナーと山伏とは似ているんですよね。今後も人様のお役に少しでも立てるよう、両方頑張っていきたいと思っています。