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2017.11.13  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

仕事とは"やらなければならないこと"

──安田さんにとって仕事とはどういうものですか?

安田祐輔-近影4

昔は仕事観についてはすごく悩みました。僕、働くのが本当に嫌いで、できれば働きたくないんですよね。ゲームと読書をしているときが一番幸せなので、ひたすら家でそれらをしていたいというのが偽らざる本音です(笑)。

ひきこもりの就労支援をする時によく話すのが、仕事(ワーク)にはライス、ライク、ライフの3種類があるということ。「ライスワーク」は食っていくためにする仕事。それは否定されることじゃないし、それで家族を養って幸せな家庭を築くのも立派なことですよね。「ライクワーク」は好きなことを仕事にするということ。それも楽しいし幸せな人生になります。「ライフワーク」は自分のミッションのため、使命感をもって人生を懸けて取り組む仕事。これも尊いことですよね。同じ意味で、大学の時の恩師に「仕事にはレイバーとワークとミッションがある」と教えてもらったことがあります。

そういう意味で言うと、僕にとって仕事とはライフでありミッション。この問題は僕にしか解決できない、僕がやらなければならないと思うことだけを仕事にしたい。そのために働いている。それが最近わかってすっきりしたんです。だから社会にあるいろいろな問題を解決するためにいろんな事業を仕掛けたいなと思っているわけです。

「僕にしか解決できないだろう」という問題がなくなれば、早く会社を売って家でゲームやってるか本を読んでいるだけの人生を送りたいと思っています(笑)。

ただ、仕事ってその人の価値観によるものなので、ライフ、ライク、ワークのうちどれがよくてどれがダメという優劣のある話じゃないんですよね。特に引きこもりの就労支援や当塾に学びに来る子たちに上から「働くってこうでなきゃいけない」という価値観を与えたくないんです。そういう価値観の押し付けに、これまでみんな苦しんできているので。

例えば学校ってたかだか100年くらい前に誰かが作ったにすぎない制度じゃないですか。にも関わらず、大人たちに「とにかく子どもは学校に行かなきゃいけない」と言われて無理矢理行かされ、学校に馴染めない子は合わない自分がダメなんじゃないかと思い悩むので。人はそれぞれ自分に合った生き方ができて、職業的に自立さえできれば何でもいいんじゃないかと思ってます。仕事にしても教育にしても、僕は誰かに自分の仕事観を押し付けたくないなと。

人生は物語

──若者に伝えたいメッセージは?

安田祐輔-近影5

大人は子どもや若者に夢をもてとか、いい大学、いい会社に入れとよく言いますが、そんなことは聞く必要はありません。夢なんてなくたって家族がいて幸せだったり、好きなことを仕事にできてて毎日が楽しいという人も大勢います。夢なんてなくていいから、自分が人生に何を求めているかを明確にして、自分らしく、自分が楽に生きられるような生き方を見つければいいのかなと思います。


──特に今、生きづらさを抱えている、未来に希望がもてない子どもに対しては?

アメリカのある政治哲学者が「『私はどうすればよいか?』という問いに答えられるのは、それに先立つ『私はどの物語の中に自分の役を見つけられるか?』という問いに答えられる場合だけだ」と言っているんですが、僕も首尾一貫した自分なりの物語を歩むことが、幸福や自己肯定感に繋がるのかもしれないと思っているんです。

若い時に大きな壁にぶつかっていろいろ悩んで挫折をした人は、大人になった時、「あの時こういう経験があったからこそ今の自分がある」と思える。その方が何の苦労もなくストレートにいい大学、いい会社に入るという順風満帆な人生よりは、豊かで味わい深い人生だと感じられるし、自分の生き方を肯定しやすいと思うんです。つまり、挫折経験が自分の人生の物語を豊かにしてくれるスパイスになる。

安田祐輔-近影6

だから挫折して希望が見えない人には、今はつらくて苦しいかもしれないけど10年後はそれがあってよかったと思える日が来るから、今の苦しい気持ちもわかるけど苦しみすぎる必要はないよ、そんなにひどく落ち込まなくてもいいよ、絶望しなくていいよと伝えたいですね。

例えば、うちの講師の半数は、自身が高校中退、不登校、引きこもりを経験しているんですが、だからこそかつての自分と同じような苦しみを味わっている子を支援したいと能動的に思うわけです。実際にそういう子たちと触れ合って仕事が楽しいと思えたら、「若い時に挫折しててよかった」と思える。それも彼らの人生の物語を豊かにしているんですよね。


──安田さんご自身も、中学から一切勉強せず高校もまともに通っていないのに自分の人生を変えたいと一念発起して高3から必死で勉強して2浪してICUに合格したり、せっかく入社した会社もうつになってわずか4ヵ月で辞めてからキズキを起業してここまで会社を成長させたりとすごい物語ですよね。

結果だけ見るとそうなんですが、僕の場合は圧倒的な意思の力で頑張って自分の人生を切り開いてきたわけではなく、ただ運がよかっただけなんですよ。大学受験だってICUには何とか引っかかりましたが、それも直前に読んでた論文が試験に出たからなだけです。他の大学は全部落ちてます。起業も同じで、お金が尽きて困ったから起業するしかないなと思ったからだし、偶然ビジネスコンテストがあったからだし。いつもギリギリのところで偶然、救われているんですよね。

今後の目標

──その運も安田さんがその時懸命にもがいたからこそ呼び寄せたのだと思います。今後の目標は?

安田祐輔-近影7

インタビューの冒頭でも話しましたが、究極の目標は「何度でもやり直せる社会を創る」ということ。キズキの授業を通じて、困難を抱えている人がもう一回立ち上がって頑張れるようにしたい。そのためにキズキ共育塾を全国に広げたい。また塾だけではなく、さまざまな支援をどんどん提供できる会社にする。それが目標ですかね。

やらなきゃいけないことが本当にたくさんあるのですが、現時点でまだ全然実現できていません。だから常に焦っています。例えば組織で働く人のうつの問題。僕自身、入社後会社に馴染めなくてうつになって辞めたという経験があるのに、その課題に対して自分がほとんど解決策を出せていない。

ようやく最近、発達障害を抱えた人がうつで退職せずに会社の中で活き活きと働けることを目的に、企業の管理職を対象とした研修を始めました。でも、それだけではまだまだ不十分。だからこの次は、企業研修にとどまらず、発達障害・うつで休職している方を直接ケアできるような場所を創りたいと思っています。また、従業員に復職してうまく働いてもらいたいと思っている経営者がいたら、そのサポートもしたい。

また、同じ発達障害の子ども・若者に特化した学習塾も開こうと思っています。これは来年の春くらいに始めたいなと。

こんな感じで、キズキはNPO法人と株式会社を合わせて、将来的には、「民間版の市役所の福祉課」のような団体になりたいと思っています。まず困った時には、「キズキに相談に行こう」と思えるような団体になりたいです。

30年後に、今課題だと思っている全ての社会課題に対して具体的かつ有効な解決策を提示できていれば最高なんですけどね。


安田祐輔(やすだ・ゆうすけ)

安田祐輔(やすだ・ゆうすけ)
1983年神奈川県生まれ。キズキ代表

藤沢市の高校を卒業後、二浪してICU(国際基督教大学)教養学部国際関係学科入学。在学中にイスラエル人とパレスチナ人を招いて平和会議を主催。長期休みのたびにバングラデシュに通い、娼婦や貧困層の人々と交流を重ねることで、人間の尊厳を守る職に就きたいと決意。卒業後は商社に4ヵ月勤務したがうつ病で退職。1年のひきこもり生活を経て、2011年キズキを設立。代表として不登校・高校中退経験者を対象とした大学受験塾の運営、大手専門学校グループと提携した中退予防事業などを行なっている。

初出日:2017.11.13 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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