沖縄県立図書館
LIBRARY

沖縄県立図書館

Okinawa Prefectural Library

県民の知と心の拠り所となり文化を創造するphoto:Nacása & Partners(自動化書架、外観夜景を除く)

那覇市寄宮の閑静な住宅街から、周辺にオフィス街が広がる泉崎へ移転。「大海を挟んだ国々をつなぐ架け橋」を意味する「津梁(しんりょう)のまちづくり」を掲げる大規模再開発地区の複合施設、3〜6階に入居している。

吹き抜け越しに、3階エントランスと4・5階窓際の閲覧エリアを見る。日中は南向きの大開口から自然光を取り込み、夜間は間接照明の柔らかい光が回り込む。

13万冊の図書と約300席の多様な閲覧デスクを有する、一般図書を中心とする4階フロア。インテリアは5階よりも明るい木目を基調とし、建築照明を抑えた室内を、書架に組み込まれたアッパー照明・ダウン照明が優しく包み込む。

のびやかな空間の中、新聞をゆったりと読める傾斜デスク。

ハイデスクやスタンディング式デスクなどで、思い思いの時間を過ごす。同フロア内に設けられた「サイレントルーム」以外は、パソコンの持ち込みが可能。

那覇の新しい顔となる
交通拠点・複合施設内に移転

1910年に創設された沖縄県立図書館。全国の公共図書館、なかでも県立図書館に求められる「知の拠点」という役割だけでなく、多くの離島から成る県域に広く図書館サービスを提供することや、琉球王国時代や移民政策、沖縄戦、戦後のアメリカ統治などの歴史的に重要な郷土資料を収集・保存・活用する取り組みが求められてきた。こうした沖縄ならではの特殊性に加え、利便性や専門性に対する県民からのニーズの高まりを背景に、同館は2018年12月、那覇の玄関口・旭橋駅前の新しい大型複合施設「カフーナ旭橋A街区」内に移転オープンした。設計を手掛けた松田平田設計沖縄事務所の所長・西川東吾氏、主管・柴田隆之氏は、「約4.5ha、5街区にわたる当駅前再開発の中でも、A街区は那覇の“新しい顔”となる建築です。とくに図書館のインテリアには地域性を取り入れ、沖縄伝統の建築素材である花ブロックや沖縄赤瓦をモチーフで彩った3層吹き抜け空間『知のナー(沖縄の言葉で「中庭」)』を中心に、4フロアがダイナミックに積層する構成としました」と語る。琉球石灰岩の大地、サンゴ礁の海、亜熱帯の森を想起させるインテリアに包まれる中、子どもや学生、高齢者だけでなく、研究者、ビジネスマン、家族連れなど、熱心に本を読む光景が、平日休日を問わず広がっている。

1行目:那覇空港からモノレールで約13分、旭橋駅からデッキで連絡する「カフーナ旭橋A街区」。国際通りからもほど近い好立地で、商業施設やオフィス、公共サービス施設などが入居。1階は島内各地を結ぶ那覇バスターミナルとなっている。

那覇空港からモノレールで約13分、旭橋駅からデッキで連絡する「カフーナ旭橋A街区」。国際通りからもほど近い好立地で、商業施設やオフィス、公共サービス施設などが入居。1階は島内各地を結ぶ那覇バスターミナルとなっている。

3行目:琉球石灰岩があしらわれた3階エントランス。

琉球石灰岩があしらわれた3階エントランス。

5行目:3階総合カウンターの前には、検索コーナーやセルフ貸出・返却機を設置。

3階総合カウンターの前には、検索コーナーやセルフ貸出・返却機を設置。

2行目:琉球織物柄のランプシェードなど、沖縄生まれの素材を散りばめている。

琉球織物柄のランプシェードなど、沖縄生まれの素材を散りばめている。

4行目:ブロックをモチーフにした化粧パネルや、沖縄赤瓦色の多孔陶管ブロック。

ブロックをモチーフにした化粧パネルや、沖縄赤瓦色の多孔陶管ブロック。

琉球・沖縄関連資料に特化した5階フロア。専用セキュリティゲート内の郷土資料室。

郷土資料室内には、AVブースや共同研究室も。

共同研究室のガラス壁には、琉球王国時代の官船「進貢船」が描かれている。

「子どもの読書活動推進エリア」と位置づけられた3階フロア。

幼児や小中高生向けだけでなく、子育て世代や小中高校の教職員向けの図書も揃う。

地域の「動的」な知の拠点へ

エントランスと総合サービスカウンターのある3階が子ども・ティーンズ向け、最も広い4階が一般・参考図書、5階が郷土資料と利用目的ごとにフロアが分かれ、明るく楽しい空間から静寂に満ちた空間へ、雰囲気にあわせてインテリアもグラデーショナルに変化する。

 とくに注目なのが、新設されたビジネスエリアと、蔵書数のみならずジャンルの豊富さを誇る郷土資料だ。「県庁や市役所にも近いオフィス街でもありますので、20時まで開館し、会社帰りに気軽に寄っていただけるようにしました。また同じ建物内に職業紹介などを行うグッジョブセンターもあり、ビジネス書の充実には力を入れています」と、館長の平良朝治氏。移転前は休館していた祝日も開館し、座席数は以前の倍に。多くの県民が利用しやすい環境を整えた。また、沖縄県は就労や研究などを目的とした短期滞在者も多く、1ヶ月以上滞在する予定があれば利用カードを作成可能。郷土資料室では、開館以来収集してきた貴重な文献や多彩なローカル新聞、一般流通していないミニコミ誌のほか、マイクロフィルムやAV資料などの閲覧ができ、グループ作業用の共同研究室も設けられている。

 アクセス抜群の立地を活かした同館のもう1つの特長が、各フロアに設けられた「交流ゾーン」だ。多目的ホールや交流ルーム、ミニ展示コーナーを、吹き抜けや階段まわりに配し、セミナーやワークショップ、アートやパネル展などを企画。交流ルームでは、県民の読書推進などを目的とするイベントが開催されており、本を読んだり、探したりする合間に、ふと視界に入ってくる。「展示の企画については、どのような情報発信をするか、どうやって興味をもっていただくか、自由な発想で取り組んでいます」(平良氏)。これまでの「静的」な知の拠点から、地域の「動的」な知の拠点へ。大海原へと漕ぎ出した同館の広がりに期待する。

4階参考資料エリアと交流ルーム。それぞれの利用者の意識を誘導するように配置されている。背板がないスリムな書架が、見通しの良さを一層引き立てる。

階主階段を上がってすぐにある展示コーナーの書架は、表紙見せスタイルの上2段と下の1段が同じ棚板で、角度を調節することで使い分けることが可能。

4階ビジネスエリア。隣接するビジネスルームは、セミナーやワークショップなどに利用されている。

3階子どもの本コーナー。書架の背板を一部抜き、隣接する多目的ホール内の様子をガラス越しに伺える。

1行目:4階吹き抜けまわりに設けられた「多文化エリア」。国内では入手しづらい米国や中国、韓国の本を借りることもできる。

4階吹き抜けまわりに設けられた「多文化エリア」。国内では入手しづらい米国や中国、韓国の本を借りることもできる。

3行目:3階エントランスまわりの展示コーナー。

3階エントランスまわりの展示コーナー。

5行目:カフーナ旭橋A街区夕景外観。2階メインエントランスからエスカレーターで3階の図書館へ。6階には離島などへの広域サービス向け書庫もある。

カフーナ旭橋A街区夕景外観。2階メインエントランスからエスカレーターで3階の図書館へ。6階には離島などへの広域サービス向け書庫もある。

2行目:

4行目:4・5階の閉架エリアには、2層にわたって50万冊の収蔵能力をもつICタグ採用の自動化書庫(上)が配されている。出納ステーション(下)でのタッチパネル操作で、簡単に図書を出し入れできる。

4・5階の閉架エリアには、2層にわたって50万冊の収蔵能力をもつICタグ採用の自動化書庫(上)が配されている。出納ステーション(下)でのタッチパネル操作で、簡単に図書を出し入れできる。

DATA

所在地沖縄県那覇市泉崎1-20-1 カフーナ旭橋A街区3-6階
開館2018年12月15日
敷地面積1万2802㎡
延床面積6万5923㎡(施設全体/うち図書館は1万3085㎡)
規模地上11階・地下1階
座席数528席
収蔵可能冊数約216万冊(将来的な書架増設分を含む)
設計監理モノレール旭橋駅周辺地区再開発計画設計共同企業体
(松田平田設計、アール・アイ・エー、国建)
施工國場組・大晋建設・丸元建設・仲本工業
特定建設工事共同企業体
bp vol.31掲載(2019.09発行)