美馬市地域交流センター ミライズ
MIMA Regional Exchange Center
商業施設から「市民の居場所」へのコンバージョンphoto:Nacása & Partners
地域に愛された商業施設を
市が再生
阿波の国・徳島県の西部、吉野川流域に約3万人が暮らす美馬市。江戸から明治にかけて阿波藍の一大生産地として栄え、藍商や呉服商の家屋や蔵が今なお残る「うだつの町並み」を歩くと、かつての栄華を偲ぶことができる。その脇町の保存地区近くに、2018年5月、オープンしたのが美馬市地域交流センター 「ミライズ」だ。「一般公募で命名された施設名には『ミライ(未来/美来)』+『ズ(図)』、『ミ(me/私)』+『ライズ(rise/上昇する)』など、市民が生き生きと暮らす明るい未来への想いが込められています」と、同センター長であり、運営を担当する穴吹エンタープライズ・橋本一二氏。
「美来創生のまち」をコンセプトに掲げる同市は、2005年に4町村が合併して誕生。このたび築30年の大型商業施設を買い取り、新たな市立図書館と市民ホールを核に、子育て支援施設、公民館機能、行政窓口機能などを集約し、市民が思い思いに過ごせる複合施設として再生した。
「1987年に県内資本のスーパーマーケットや地元の小売店が集まって開業し、運営してきたショッピングセンターでしたが、8年ほど前に利活用の相談が寄せられたのがきっかけです。ちょうど市でも、周辺の図書館や公民館、福祉センターなどの公共施設が老朽化し、施設の再編整備を進めようとしていたところでしたので、検討委員会を立ち上げました。様々な検討を重ねた結果、長年市民にも親しまれてきたランドマーク的な建物をコンバージョンしてそれらの機能を集約し、県西部の中核拠点施設として活用することになりました」と、同市美来創生局プロジェクト推進課 課長・西岡英樹氏は今回の経緯を振り返る。
かつて吉野川に面していた脇町は藍の集散地の1つで、本瓦葺きの大屋根、漆喰仕上げの厚い壁の家屋や蔵が建ち並ぶ「うだつの町並み」は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定。近くに建つ「オデオン座(脇町劇場)」とともに、美馬市の観光名所となっている。
ショッピングセンター時代、駐車場だった屋上は、山々や川を望む、広々とした遊び場に。現在の駐車場は地上と地下のみで、約450台を収容可能。
「○○のハコ」と名付けられた活動領域や、思い思いに時間を過ごす居場所を巡る、建物全体に広がる回遊動線。
スーパーマーケットと隣り合う貸し音楽スタジオ「奏でるハコ」は、リピート利用率が高い施設の1つ。
1階にエントランスは5箇所あり、写真はエレベーター前のエントランスホール。ロゴと組み合わせたサインは、建物の平面グリッドをモチーフにしたもの。
人と人を結びつける「ハコ」
地下1階、地上2階建ての建物は、ワンフロアが約6000m²と広大。市民待望の約500席、建物3層分のホールは、既存の吹き抜け空間を活用しつつ、1階の床を抜いて収めている。1階は以前からのスーパーマーケットが営業しているほか、ホールを中心に、ホワイエ、住民票など証明書の発行を行う脇町市民サービスセンター、交番、観光情報発信センター、貸し会議室や研修室、音楽スタジオを配し、幅広い年代の市民が行き交う。各室の名称もまたユニークで、「市民のハコ」「活動のハコ」「奏でるハコ」など、「○○のハコ」と名付けられているのだ。設計を手掛けたアール・アイ・エーの設計部副参事・辻村一義氏、同主任・大野佑太氏は、「この大空間を広々とした『原っぱ』に見立て、そこに大小の箱を点在させて、市民が活動するイメージで設計しました。箱以外の部分は『ストリート』のようなパブリックスペースで、行き止まりがない回遊動線でもあり、多彩な居場所をしつらえています」と語る。ハコの中を覗いたり、ハコ同士で様子を伺ったり。市民の関心を誘い、交流を促す仕掛けに溢れている。
2階の約4割を占める美馬市立図書館にも、このコンセプトを展開。新聞・雑誌の書架で囲われた閲覧スペース「読書のハコ」を中心に、児童図書エリアや一般図書エリアを隣接させてゾーニングし、所々に散りばめられた「板間のハコ」や「タタミのハコ」などの様々な閲覧スペースでは、子どもと大人が入り混じって読書を楽しむ姿が印象的だ。「これからの時代、図書館には人と本の出会いだけでなく、人と人、人と郷土を結びつける役割が求められています」と同館長の図書館流通センター・梶浦真子氏。「おはなしのハコ」では読み聞かせイベントだけでなく、地元出身の将棋名人にちなんだ将棋サロンなども開催している。
行政と民間、そして新旧の柔軟な融合によって生まれた「市民の居場所」。ここからどんな未来が生まれるのか、楽しみだ。
2階には、図書館、小規模保育所、子育て支援施設のほか、料理教室が開ける「料理のハコ」。
壁面にボルダリングを設け、ダンスなどの活動ができる「運動のハコ」。畳敷きの集会所「和のハコ」など、2階には5種10室のハコが点在する。
1階のハコは「会議のハコ」など、8種9室。
既存の吹き抜けとトップライトを活用した1階ホワイエ。白を基調とした明るいインテリアのポイントに、「阿波藍ブルー」をあしらっている。
同センターは夜10時まで開館。夜間の利用者も多い。1階のフリースペース「縁側のハコ」は、全開口サッシを開ければオープンエアーになる。
DATA
所在地 | 徳島県美馬市脇町大字猪尻字西分116-1 |
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開館 | 2018年5月12日 |
敷地面積 | 1万8053㎡ |
延床面積 | 2万3342㎡(施設全体/うち9500㎡を改修) |
規模 | 地上2階・地下1階 |
ホール客席数 | 501席 |
図書館座席数 | 185席(テラス・カフェを含む) |
図書館収容可能冊数 | 約15万冊 |
改修設計 | アール・アイ・エー |
改修施工 | 五洋建設 |