日華化学株式会社
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日華化学株式会社
NICCA イノベーションセンター

NICCA CHEMICAL CO., LTD.

知恵や技術を交換し、新たな創発を起こす「バザール」photo:Nacása & Partners

1Fの「オープン スクエア」には福井県産の杉材で製作された9つのショーケースがあり、同社の技術や製品を展示。引き出し方式で、展示内容を柔軟に変えることができる。

隣接した「コラボレーション スクエア」にはガラス張りの部屋があり、訪れた人たちとすぐに技術や意見を交換することができる。

「ガーデン スクエア」の奥には、「コラボレーション スクエア」の個室が見える。

「ガーデン スクエア」と呼ばれる多目的スペースを、2Fから眺めたところ。壁面にはプロジェクタや大型スクリーンが設置され、セミナーやシンポジウムなどにも用いられる。普段は約120席の社員食堂として利用されている。

社外との「共創」によって
地方発のオープンイノベーションへ

福井を代表する企業として知られる日華化学株式会社。1941年に創立した化学メーカーであり、界面活性剤や高分子を中心とする界面科学と、毛髪科学を基盤にして大きく成長。繊維加工、紙パルプ、クリーニングなどの各業界向け薬剤、化粧品などを提供している。

 創業75周年を契機に、本社敷地内に従来の研究所に増築する形で新しい研究施設を整備した。「幸福度が高く、ものづくりに長けてきた福井の風土」を大切にしながら、さらに開発スピードを高めるための創発の場。それが2017年11月にオープンした、NICCAイノベーションセンターである。テーマは「BAZAAR(市場)」。今までの研究所という概念を打ち破る、トルコのイスタンブールのグランド・バザールのような都市空間をめざした場が創造された。ここを訪れると何かがあり、何かに触発される。特に1Fのオープンフロアには5つのスクエアがバザールのように広がり、自由な雰囲気の中で「協働」が行われる。ワクワクする出会いによって社外のアイデアやリソースも組み合わせた、「地方発のオープンイノベーション」が沸き起こるのだ。

 合言葉は「HAPPY WORK PLACE.」そして「HAPPY WORK STYLE.」。働く環境が、働き方を変える突破口になる。その根幹にあるのが、本質的にオープンな場であること。執務エリアが遮るもののない大空間であることに加えて、実験室をすべてガラス張りにした。さまざまな仕掛けと工夫が盛り込まれた空間が、人を活性化させ、人と人とを結びつけ、「HAPPY」な創発へと向かわせている。

1行目:NICCAイノベーションセンターは、JR福井駅から北西へ2.5kmほどの場所に位置し、表通りに面している。

NICCAイノベーションセンターは、JR福井駅から北西へ2.5kmほどの場所に位置し、表通りに面している。

3行目:「NICギャラリー」では、同社の先端技術であるUVインク対応の脱墨剤で再生されたパルプと、地元の越前和紙との美しいコラボレーションが壁面を彩っている。

「NICギャラリー」では、同社の先端技術であるUVインク対応の脱墨剤で再生されたパルプと、地元の越前和紙との美しいコラボレーションが壁面を彩っている。

5行目:同社の化粧品開発を共創によって深める「ヘア サイエンス スクエア」のラボスペース。ガラス張りで中の様子がうかがえる。

同社の化粧品開発を共創によって深める「ヘア サイエンス スクエア」のラボスペース。ガラス張りで中の様子がうかがえる。

2行目:「ガーデン スクエア」には、長さ7mのハイテーブルも設置。実際に製材所を訪問し発見した福井特有の黒杉で製作され、さまざまな人が一つのテーブルを囲むコミュニケーションの場にもなっている。窓の外には、緑豊かで水盤のある美しい庭園が見える。

「ガーデン スクエア」には、長さ7mのハイテーブルも設置。実際に製材所を訪問し発見した福井特有の黒杉で製作され、さまざまな人が一つのテーブルを囲むコミュニケーションの場にもなっている。窓の外には、緑豊かで水盤のある美しい庭園が見える。

4行目:吹き抜けによって他の階の様子を見渡すことができる。

吹き抜けによって他の階の様子を見渡すことができる。

大通りや裏通りなどの考え方で
オフィスの中に都市空間を構成

オフィスは上から下まで常に「見る・見られる」という関係が成立する大空間であり、2・3Fは執務エリアや実験室、4Fは役員フロアとなっている。執務エリアのおよそ7割にフリーアドレスを導入。台形の「イノベーションデスク」は特注品で可動式であり、自由自在にレイアウト変更ができ、フレキシブルな仕事をサポートしている。

 そして各エリアは、まるで都市空間を構成するように創造された。1Fの共創空間は「バザール」。執務エリアは「広場」で、実験室が「家」。そして、オープンなコミュニケーションのできる「大通り」があり、静かな集中の場として活用される「裏通り」がある。社員は「広場」と「家」の間を行き来する中で、今までになかった交流が生まれ、シナジーが生まれる。「大通り」にはカフェやライブラリー、階段があり、みんなが自然に集まる場として機能している。そして「裏通り」にある通称「篭り部屋」や「1on1ルーム」では、集中して仕事を行うことができる。

 2014年頃からのオフィス創造プロジェクトでは、各部門からランダムに抽出した、若手を中心とした約40名のプロジェクトチームを編成。3度のメンバーチェンジによって、より可変的に多くの人が参加できるようにした。全社員に対して自由にアイデアを募るアンケートも実施。働き方と環境をデザインする7回のワークショップでは、みんなでミュージックビデオを製作するなど、仕事に対する意識改革へのさまざまな取り組みも行われた。刺激的なエネルギーが渦巻くオフィス創造のプロセスが、すでにオープンイノベーションとなり、「HAPPY WORK STYLE.」へとつながったのだ。

 創造の、市場へ。そして、新たな働き方のある共同体へ。福井で始まったばかりの、オフィス発のイノベーションに注目したい。

トップライトからの自然光をスリットやタペストリーが柔らかく拡散させている、NICCAイノベーションセンター。

執務エリア内には、吹き抜けの上階からも見える、高さ4mのホワイトボードも。ディスカッションやプレゼンテーションの様子を見ながら情報共有できる、同社らしさが感じられる仕掛けである。

大通りや裏通りといった都市空間の機能があり、集中と交流のバランスがとれる働きやすい執務空間が創造されている。

裏通りにある「篭り部屋」。落ち着く、隠れ家のような空間である。

2Fの実験室と実験室の間には「白テーブル」と呼ばれる交流の場を用意。お菓子などが置かれ、ほっと一息つきながら研究員が気軽に会話し、情報を交換できる場になっている。

カフェの空間は、吹き抜けに面して全体を見渡せる大通りに設けられた交流の場である。

3Fの中央部に設けられたライブラリーは、大きな本棚に化学や美容の専門誌やファッション雑誌、社員が薦める本も並び、知の刺激にあふれるリフレッシュ空間。

1行目:オープンな都市空間のようであり、吹き抜けを通して人の行き交う姿をどの場所からもよく見ることができる。

オープンな都市空間のようであり、吹き抜けを通して人の行き交う姿をどの場所からもよく見ることができる。

3行目:2Fの実験室と実験室の間には「白テーブル」と呼ばれる交流の場を用意。お菓子などが置かれ、ほっと一息つきながら研究員が気軽に会話し、情報を交換できる場になっている。

2Fの実験室と実験室の間には「白テーブル」と呼ばれる交流の場を用意。お菓子などが置かれ、ほっと一息つきながら研究員が気軽に会話し、情報を交換できる場になっている。

2行目:執務エリアではデスクを自由に動かし、さまざまな形に組み合わせて仕事が行われている。スタンド型のタスク照明も可動式。

執務エリアではデスクを自由に動かし、さまざまな形に組み合わせて仕事が行われている。スタンド型のタスク照明も可動式。

4行目:執務エリアには職種に合わせて固定席も設けられている。

執務エリアには職種に合わせて固定席も設けられている。

DATA

所在地福井県福井市文京4-23-1
オフィス対象面積7,296㎡(新築部分)
オフィス対象人員170名(新築部分)
インテリア竣工2017年11月
建築設計・オフィス設計・
デザイン
小堀哲夫建築設計事務所
オフィス設計・デザインオカムラ(神山里毅)
造作家具清水建設、新潟三越伊勢丹
照明デザイン岡安泉照明設計事務所
ランドスケープスタジオテラ
テキスタイル安東陽子デザイン
越前和紙アートワーク小堀哲夫建築設計事務所、杉原商店
福井県産材家具オカムラ、中西木材
bp vol.27掲載(2018.04発行)