小室 淑恵 - futureplaceインタビュー

小室 淑恵 株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 I N T E R V I E W こむろ・よしえ 1975 年、東京都生まれ。日本女子大 学文学部卒業。 2006 年、株式会社 ワーク・ライフバランスを設立。多くの企 業・自治体などに働き方改革コンサル ティングを提供し、残業削減と業績向 上の両立など多くの成果を出している。 年 200 回以上の講演依頼を全国から 受け、役員や管理職が働き方改革の 必要性を深く理解できる研修にも定評 がある。 2014 年 9 月より安倍内閣「産 業競争力会議」民間議員、 2015 年 2 月 より文部科学省「中央教育審議会」 委員、内閣府「子ども・子育て会議」委 員、経済産業省「産業構造審議会」委 員、厚生労働省「社会保障審議会年 金部会」委員など複数の公務を兼任。 日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー 2004 受 賞。 2014 年 5 月ベストマザー賞(経済 部門)受賞。 の人が蚊帳の外になってしまったという現 実があります。これを「パパはゾンビ問題」と 言うのですが(笑)、働き方改革を行っても 本人の生き方が変わらないと、企業にとって 見返りが何もない残念な状態になったりしま す。少なくとも、これから子どもが産まれる世 代では、ちゃんとママとパパになるという最 初のスイッチを入れるべきでしょう。 なるほど!だからこそ生き方を変える スイッチとしての、男性の育児休業取得 率 100 %でもあるのですね。 イノベーションの根底の部分から見ていく 必要があると思うんです。経営者が気合い を入れて 100 回くらいイノベーションと繰り 返したところで、どうやらイノベーションは起 きないということが最近分かってきたと思い ます(笑)。それだけのインプットと環境がな ければ生まれないことにみんな気づきはじめ て、やっと危機感を持ってきているのではな いでしょうか。「なるほど、育児休業はそうい うふうにイノベーションにつながるのか」とい う新しい発想が出てきているような、日本社 会が変わりそうな「夜明け前」の感じがして います。 心理的安全性を高めながら 関係の質を向上させていく そうですか。少し変わりそうな感じがあり ますか。 起業して 14 年、長時間労働の是正に取り 組んできましたが、それが今年の春にやっと 国によって法制化されました。これでまず、今 まで青天井だったフタが閉まったわけです。 この中でやることがルールになりましたから、 時間外でも厭わずに働く人を増やすのでは なく、今度はいかに生産性を高めるかが経 営者の腕の見せどころになります。このルー ル変更が 1 社や数社だけではなく、国全体 のルールとして行うことに大きな意義がある でしょう。ここから発想の転換が生まれてい くと思います。 そうした中での働き方改革になるわけで すね。それにしても小室さんは、具体的 に働き方を変える手法をいくつも提示 していますね。変えるための会議という 「カエル会議」の仕組みもそうですね。 このオフィスを改装する際にも、まずは 6 人 ほどの顔が見える小さなチームでみんなが アイデアを付箋に書きました。そして 5 つの チームの分をすべて壁に貼り出しましたが、 本当にいろいろな視点から現在の課題が 洗い出されました。先日も私たちが「やめる 仕事」というのをみんなで決める「カエル会 議」を行ったのですが、そのやめるべき仕事 をつくった人もその場にいますから(笑)、安 心して意見を出せる状況にしないといけま せん。これを「心理的安全性を高める」と言 いますが、対人関係における信頼感や安心 感がなければ、お互いの関係の質の向上は 生まれないと思います。 そうやって提案できる働き方を、自らの 会社で実践されているわけですね。 コンサルティング会社といっても、ただ意見 を出すだけのところもありますよね。特に、私 たちのように働き方改革に取り組む競合が あまり出てこないのは、多くのコンサルティン グ会社が長時間労働であるという実態もあ ると思います。自分たちが働き方を変えて、 そこで障壁に当たった経験がないから、「ク ラウドを入れましょう」みたいな表面的な働き 方改革になってしまうのだと思います。ツー ルに頼りがちになってしまうんですよね。 自律的に仕事ができるように 考える行為を大切にしたい 小室さんは企業経営者の立場として は、社員をどうやって成長させるか、ず いぶん考えられたりするのですか。 そうですね。でも私たちの会社も、起業して 4 ~ 5 年くらいはトップダウンに近かったと思 います。そこから、自分のマネジメント手法 に問題があるなと思い、今はコーチングを主 に使ったボトムアップ型の組織になってい ます。以前は、こうしておいて、ああしておい てとテキパキ指示を出すティーチングタイプ のリーダーでした。何でもすぐにアイデアを 出し、意思決定して、仕事が早く進むから生 産性が高まる。それがいいというイメージを、 きっと多くのリーダーが持っていると思いま す。でも、何か考えている途中の社員に対 して意思決定をしてしまうと、考える力が育 たなくなってしまいます。リーダーが良かれと 思って、背中を見せて育てているつもりでは ダメなんです。人は、見ただけでは習得しま せん。自分で考えないと。ですからヒントは出 すけれど結論は言わないとか、考えるプロセ スを経て自律的に仕事ができることをいか に経験させるかが大切になります。答えを 教えるのがティーチングなら、答えを引き出 すのがコーチングです。今は当社の全社員 が、コーチングの資格を取得しています。 考える力を育てるって、簡単なようで難 しいのでしょうね。 このお話は、日本の教育の仕組みにもつな がったりします。この国の学校教育は、自 律性がむしろ育たないように、組織の中で 従順であることをベースにしたプログラムが 組まれていますから、そこがもしかしたら働き 方・生産性の根本的な課題かもしれません ね。実は、自分で時間割を決めないというの は、先進国の中で日本だけなんです。オラン ダなどは小学 1 年生からすべての時間割を 自分で決めます。やりたいものを自分で選ん で、その場に自分が行く。でも日本では教室 があって、そこに先生が来て、決まった時間 割で授業を受ける。それでは受け身になって しまいますよね。私たちは小・中学校のコン サルティングも行っていますが、自分に必要 なものを自分で取りに行くというトレーニング を社会人に対して再度行わないと、生産性 は上がらないかもしれません。 最後にお尋ねしますが、小室さんの個 人的な信条は、どういったものですか。 信条といっても、皆さんに普段お話ししてい ることと変わらない感じです。でも、本気で考 えているのは、ダイバーシティです。常に多 様な人同士でやっていきたいと思っていま す。多様性ということはかなり強く意識して いないと、人は同質的なところにいると居心 地がよくなってしまいます。自分に対するイエ スマンや、似た思考の人を集めてしまうのは 危ないと思います。多様な人のいない組織 は、何かしら違う方向へ向かっている時に止 める人もいません。ですから、自分とは違う考 えの人ほど大切にしようと思っています。い ろいろな考え方がある。いろいろなライフが ある。だからこそ私は、この国の一人ひとり に響く働き方改革を成し遂げたい。その想 いがすべてですね。 ワーク・ライフバランスのオフィスには、 カフェのように寛げるソファや、集中し て仕事のできる上下昇降デスクなども 用意されている。 best practice for work place VOL.32 | NOVEMBER 2019 YOSHIE KOMURO inter v iew with

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