小室 淑恵 - futureplaceインタビュー
I N T E R V I E W photo & portrait: Nacása & Partners この国を代表する「働き方改革の旗手」として活躍を続ける、小室淑恵さん。 1,000 社以上の働き方改革を成功に導いたコンサルティング企業である 株式会社ワーク・ライフバランスの社長であり、多くの公務を兼任している。 これから企業が抱える諸問題、教育やイノベーションの本質など、 あらゆる分野に通底するベーシックな考え方も含めて、貴重なお話をうかがった。 それぞれのライフを見つめ、ダイバーシティを実現したい 小室 淑恵 株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 (→次ページに続く) ワイワイできるとともに 集中もできるオフィスへ まず、小室さんが社長を務める株式会 社ワーク・ライフバランスのオフィスが、 この春に改装されたことからお聞きした いと思います。 私たちのようなコンサルタントの仕事もそう ですが、朝からクライアント先を回り、オフィ スにいる時間が少ないという人も多いと思 います。それに、これからテレワークを解禁す る企業が増えると、必ずオフィスの人口が 減ってきます。もちろん減るばかりでは、仕事 の生産性は上がりません。ですから、モバイ ルワークをしている人でも思わず足を運ぶ 魅力のあるオフィスづくりが、これから多くの 企業の課題になると思います。当社では個 人の裁量に任せた働き方をしていますから、 オフィスに来ることも自分の意思次第という ところがあります。ですから、みんなが「オア シスだな」「ここに来たほうが生産性や集中 力が上がるな」と感じられるオフィスにした い。そんな議論をここ数年続けてきました。 みんなが顔を合わせながら、ワイワイできるこ とも大切。そして、短い時間で仕事をやりき る、集中できる環境も大切。この 2 つを、限り ある広さの中で両立させることは難しかった ですね。 カフェっぽい空間があるなど、とても居 心地のよいオフィスになっていますね。 働くには空間も、仕組みも大切でしょう けれど、「朝夜メール」という仕組みは 面白いですね。 自分が立てたスケジュールを、社内に公開 するというものですね。 1 日の最初に自分の 仕事内容を 15 分~ 30 分単位でブレイクダ ウンしてイメージし、それを周りの人にも見 てもらいます。そして夜、それを振り返りなが らまたみんなで共有します。ただし、私たち のクライアントにはメールを使わずに、現場 でホワイトボードを使って情報を共有する人 もいます。ですから、必ずしもメールにはこだ わらなくていいと思います。作業予定という のは、ほとんどの人が立てていると思います が、自分だけの視点に捉われないことが大 事です。一つ上の視点で見ている人からす れば「優先順位が全然違うのでは?」という こともあるでしょう。本人は、実は好きな仕事 から順に取り組んでしまっているというケー スもあります。自分で考えて組み立てたこと をオープンにして、他人から生産性を向上さ せるアドバイスをもらうことが、自分の成長の チャンスにもつながります。 なるほど、それが成長のチャンスだと前 向きに考えるのですね。 個人が時間に対する自律性を高めること は、どの企業も考えていることだと思いま す。ただし、労働時間を短くするだけではな い考え方も必要だと思います。「朝夜メー ル」は、その一つですね。 仕事や育児や介護以外にも 重要なライフの価値がある 小室さんの言葉で、ワーク・ライフバラ ンスは、決してワーク・ファミリーバラン スだけではないというのがとても印象 的でした。確かに、ライフは価値観とと もに、人それぞれに異なるものですね。 優しい企業というか、いい企業ほど、最初は ワーク・ファミリーバランスに偏ってしまいが ちだと思います。企業側は良かれと思って、 育児中の人に何かしてあげようとサポートす るのです。また、女性活躍というのも、女性 支援・女性保護になりがちです。でも実際に は、それぞれの人が持つ重要なライフという ものは、育児だけでも家庭だけでもなかった りします。育児や介護については、国の制 度もありますからサポートしてほしいと言い出 しやすいかもしれませんが、不妊治療といっ たことは言いづらいし、それをサポートする 仕組みもまだありません。本人にとっては同 じくらい重要な問題で悩んでいても、助けが ない。そういう人にとっては、育児だけが厚く サポートされるのは心苦しいかもしれません。 また、サポートされる側が、自分だけ特別扱 いされて肩身が狭くなってしまうこともありま す。そこで分断が起きてしまうとみんなで一 枚岩になれなくて、生産性も上がらない。女 性に優しいと言われる企業の業績が必ずし も上がらない要因には、そんなこともあると 思います。 私たちが未来に対して行うこと、残して いくことは、仕事も、育児も、介護も、そ れ以外のこともたくさんあるのですね。 最近私たちは、男性の育児休業取得率 100 %をめざし、経営者の顔とサインと企業 のロゴマークまで出して宣言する「男性育 休 100 %宣言」というスキームをつくりまし た。そうもしないと、この社会はなかなか変 わっていかないと思うんです。そこで面白い と思ったのは、私たちがこれを仕掛けた時 に、意外にも、おそらく今まで育児に一切関 わらなかったような男性経営者の方々が、か なり早い段階で賛同してくださったんです。 「この社会が次世代に続いていかなけれ ば意味がない」というサスティナブル社会の 実現について、今多くの経営者が理解を示 していると感じます。 労働時間を減らした分を どのように明日へつなげるか いいお話ですね。他に何か、最近の働き 方におけるエピソードなどはありますか。 今は労働時間の短縮が法律で設定されて、 事実上労働時間が減った人がたくさんいま す。でも、その人たちの行動が、意外に以前 と変わらないことが大きな問題になっていま す。会社から追い出され、家にも居場所がな くてフラフラしているのでフラリーマンとも呼 ばれていますが(笑)、せっかく新しい経験や 価値観を手にするための時間を与えても、そ れが会社にイノベーションとなって戻ってこ ない。なぜかというと、育児の初期段階でそ 2019 年の春、港区芝浦にあるワーク・ ライフバランスのオフィスは改装を行っ た。モニタの付いたファミレスタイプの 会議室も設けられた。 同社ではフリーアドレスとテレワークを 採用。オフィスに設けられたさまざまな場 を自由に選びながら働くことができる。 best practice for work place VOL.32 | NOVEMBER 2019 YOSHIE KOMURO
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