小堀 哲夫 - futureplaceインタビュー
小堀 哲夫 建築家 I N T E R V I E W こぼり・てつお 1971 年岐阜県生まれ。 1997 年法政 大学大学院工学研究科建設工学専 攻修士課程を修了後、久米設計を経 て、 2008 年に小堀哲夫建築設計事 務所を設立。 2014 年より法政大学 デザイン工学部建築学科兼任講師。 「 ROKI グローバルイノベーションセ ンター」( 2013 年)では、 2017 年に日 本建築学会賞作品賞と J I A 日本建 築大賞の国内 2 大タイトルを史上初 めて同年中にダブル受賞。代表的な 設計に「南相馬市消防防災センター」 ( 2015 年)、「昭和学園高等学校」 ( 2015 年)など。「光」や「風」といった 自然要素を内部空間に取り入れる設 計が評価され、注目を集めている。国 内・海外における受賞歴多数。 JIA 会 員、日本建築学会会員。 大きくて立派な吹き抜けがあっても、寂しく 感じる。人恋しいんですよ。人と人とがふれ 合うゲストハウスが、すごく心地よかったんで す。建築もエモーショナルなものだと思いま すし、設計に携わる人間としては、人間の幸 せに寄与していくことが、自分も幸せなのだ ろうなと強く感じましたね。 -今の例で、先ほどの「居場所」の話 が、よりはっきりと分かりました。 ですから「居場所」をつくることが、これから のオフィスの大切なテーマかもしれません。 「オフィスって、こうあるべきだ」と考えること と、「人間の居場所って、こうあるべきだ」と 考えて設計するのでは、大きな隔たりがあり ます。それは両方上手く融合していくべきで しょう。「居場所ばかりあったら、働かなくな るんじゃないか?」という企業側の論理があ るかもしれませんが、もうすでにマルチタスク で、いろんな場で仕事のできる時代になって いますよね。使い方を規定せずに、ワーカー が自由に選択できる場所の方が面白いで しょうね。 民間企業がオフィスの中に どうやって他者を受け入れるか -改めて「 NICCA イノベーションセン ター」の設計のポイントについて紹介を お願いします。 空間が公共性を獲得することを、かなり考え ました。 1F はいろんな人が入って来られるよ うなパブリックな空間で、屋外も公園のよう な雰囲気にしました。敷地の一部は歩道と して提供し、ベンチを置いたりもしているん です。そして建物の中には都市空間をつくり ました。外部から訪れた他者が一企業の中 で交わるということが、どれだけの新しい創 造性につながるかが、これからの大きなテー マだと思います。ですから、公共性というもの は、今後は民間が生み出していくものかもし れませんね。そうやってオフィス空間の中に 外部の人を取り込んで行くと、これから都市 がますます面白くなると思うんです。それは日 本家屋で言うと、縁側や土間のような場に なるのでしょう。 -公共性は、民間が生み出していくも の。これも実に興味深いですね。 日華化学さんは「大家族主義」という、創業 からの精神を大切にしています。それは、社 員みんなが一つの家族であるという相互扶 助の精神です。そうした伝統に加えてこれか らは、共同体だけれど他者を受け入れる場 を持てるかどうかが重要になります。日本は 島国で、元々は他者を受け入れにくかった 国ですよね。ところが、例えばイタリアで調 査した住宅や広場などでは、かなり他者を受 け入れるんですよね。日本は、新しい公共性 の文化では遅れていて、だからガラパゴス化 する部分もあると思うんです。今回のオフィ スでオープンイノベーションをテーマにして いるのは、自分の家に他者を受け入れるよ うなもの。公共施設だったら簡単にできるこ とを、民間企業がオフィスの中でどう実現で きるか。そんなことを考えて取り組む動きが、 ここ 10 年以内にもっと顕著になると思いま す。自分たちが生き残りをかける一つの手 法として、そうしたやり方を学んでいくような 気がしますね。 -他者をどうやって招き入れるかを、オ フィスにおいて模索するのですね。 日華化学のオフィスづくりでは「 BAZAAR (市場)」を一つのコンセプトにしましたが、 東洋と西洋が混じり合うトルコのイスタン ブールにあるグランド・バザールの市場を イメージしました。そこではモノ、人、ビジネ ス、売買、歩く楽しさなど、いろいろなものが ごちゃ混ぜになっています。都市の形成史 を考えると、それぞれに村という共同体をつ くっていく中で、唯一他人が入って緩やか につながることのできる場所がマーケットな んです。だから、モノを売るって大事なんです よ。マーケットがあるから、周りの共同体の 人が来て、異分野交流が生じる。イノベー ションが起きる。シルクロードでもなんでもそ うです。そんな他人と接点のある空間装置 であるマーケットを、僕らは「バザール」と呼 んだだけなんです。だから、もしかしたら全部 がマーケットになることが、オフィスの最終形 なのかもしれません。その中で、個々のワー クはいろんな所ですればいい。そんな世界 になっていくかもしれませんね。 「ここが私の場所なんだ」と 言える場所がどれだけあるか -「 NICCA イノベーションセンター」の お話から、「居場所」に関するさまざまな 側面のお話まで、とても魅力的な考え方 をうかがいました。 都市の中に自分の居場所を獲得できてい る人は、幸せですよね。それは日本の都市 の中でも、例えば裏通りや横丁の光景に はっきりと見られたりします。都市そのもの が、「居場所」の総体になるといいですね。 お年寄りでも赤ちゃんでも、女性でも男性で も、「ここが私の場所なんだ」と言える場所 がどれだけあるかが、その都市の魅力の尺 度になるような気がします。個人的な感情や 感性みたいなもので、都市を測っていく。オ フィスの魅力も、今後そういうもので測れる 可能性があるでしょう。 -個人的な感情や感性に注視したイノ ベーション。楽しみですね。 最近もう一つ、自分の体験として思ったこと があります。いつもの時間にオフィスへ来る のにたどる道を、 2 時間くらい早起きして目 的のない散歩道として歩くと、同じ道なのに まったく感じ方が違うんです。このことがとて も新鮮でしたが、仕事においてもきっとそう なのでしょう。通っている道は同じでも、感じ 方や考え方一つで、清々しい道に見える。そ の手法を身に付けたら、きっと毎日が楽しい のだろうと思います。同じことをしても、圧倒 的にクリエイティブになる方法や気持ち。そ れを、日華化学さんは「 HAPPY 」という言葉 で表し、追い求めていたのだと思います。 「 NICCA イノベーションセンター」の 100 分の 1 模型を前に語り合う、小堀哲夫建築設計事 務所のメンバー。「オブジェクト指向」によるプ ロトタイピングを重視し、できるだけ模型などに よる「場の共有感」や「感情の高まり」を大切 にしながら討議や確認を行うようにしている。 best practice for work place VOL.27 | APRIL 2018 TETSUO KOBORI inter v iew with
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