小堀 哲夫 - futureplaceインタビュー
I N T E R V I E W photo & portrait: Nacása & Partners 日本を代表する新時代の建築家として注目を集めている小堀哲夫さん。 2017 年春には、「 ROKI グローバルイノベーションセンター」 ( 2013 年竣工: bp VOL.13 で紹介) で、 日本建築学会賞作品賞と JIA 日本建築大賞の 2 大タイトルを受賞。 最近では日華化学株式会社の「 NICCA イノベーションセンター」 ( 7 ページから紹介) の建築設計を手掛けた。 その思想やこれからのオフィス、幸せな社会への進み方などについてお話をうかがった。 幸せな「居場所」をつくるために、建築の仕事を続けたい 小堀 哲夫 建築家/株式会社小堀哲夫建築設計事務所 代表 (→次ページに続く) 人としての生き方についても みんなで楽しく議論した -まずは小堀さんが建築設計された 「 NICCA イノベーションセンター」につい て聞かせてください。 オフィスづくりのプロジェクトでは、日華化学 の社員を中心に、 40 人くらいが参加しワー クショップも含めてみんな楽しんでやってい ましたね。打ち合わせを重ね、本質的な内 容について議論できた、まさにクライアントと 一緒に創造したオフィスだと思います。私は イメージしやすい場の雰囲気をつくるために も、全体模型によって提案していましたが、 もし「何席必要だ」「これだけのスペースが 必要だ」というディテールから入ったら、ここ までのものはできなかったかもしれません。 人々がオフィスに居る時間はとても長いです から、その中でどれだけ主体的に生きていけ るか、創造的に仕事ができるかは、とても大 切です。「 HAPPY WORK PLACE. 」という 合言葉に象徴されるように、デザインよりも 前に、人としての生き方みたいなことを徹底 的に議論できたのは有意義でした。 -クライアント側と設計側との、とても 良好な関係があったということですね。 そうですね。それに極論すると、いくらオフィ スという場から働き方を変えようと考えても、 クライアントが変わらなければ、変わらないと 思うんですよ。そのためには「働くって、どうい うこと?」といった根本的なことをちゃんとみ んなで議論して行かないと。だから今回は打 ち合わせというよりも勉強会をしている雰囲 気でしたね。それで、ネタの出し合いなんで すよ。「こんな本を読んだけれどとても良かっ た」と誰かが言うと、みんなでその本を読む んです。非常に面白かったですね。 -そこまで真剣に、本質的なところから アプローチしていったのですね。 例えば、仕事が楽しくて、会社に来たいと 思わなければ、新しい研究開発なんてでき ないでしょう。いくら「新しいことに挑戦しよ う」と言っても、チャレンジできない人もいる わけです。じゃあどうすればマインドセットを 変えられるのか、福井県の日華化学さんは 真剣に考えていました。まずは、「福井人」 について。福井の人って、すごく真面目なん ですよ。それで、教育水準や持ち家率や貯 蓄率が高くて、幸福度も高い。そんなポテン シャルを新たな発想やイノベーションにつ なげるためには、自分たちの気持ちの変化 や、異質な他者を受け入れる文化の創造 も必要だと言うんです。それができる場をつ くるんだというクライアントの想いを、ひしひ しと感じましたね。 シームレスかつ能動的な 仕事や生活がプラスに働く -ある日華化学の社員の方は、新しい オフィスで働き始めてから、日々の生活が 健康になったという話をしてくれました。 それは面白いですね。人生って、「会社にい る時間」「家にいる時間」「趣味の時間」… と分断されているのではなく、いちばん楽し いのはそれらがシームレスに続いて、すべて が連携し関係し合っている状態で生活でき ることだと思うんです。ところが、オフィスで は「あなたの席はここですよ」というところか ら始まって、仕組みとして受動的なことが多 い。能動的に自分から働く場所を選択でき るようになれば、それだけ人に与えるプラス のインパクトって大きいと思います。 -お仕着せの時間を過ごすのではな く、常に能動性のある生活や仕事のしか たが、その人の人生を高めるのですね。 私が設計する建築は、「身体的な自然環 境」というのを一つのテーマにしています。 自然環境の変化を感じられることは、今お話 ししたシームレスな生活と、かなり似ていま すね。均質ではない、連続的な曖昧さの中 で仕事をすることが、生産性を高めると思い ます。ですから、「オフィスにいる時間」と「家 にいる時間」がお互いに作用して健康にな れるというのはうれしいですね。 「居場所」を設計することは 今後のオフィスの大切なテーマ -それでは、オフィスの設計において大 切にされていることは? さっきの「健康になった」という話にもつなが るのですが、結局「感情に訴える」ことが大 切な気がします。オフィスって合理的に考え がちなのですが、そこで働く人はロジカルな 理にかなった設計よりも、感情的な設計の 方が気持ちよかったりします。所詮人間って、 「気持ちいいな」とか「このインテリア、い いね」というところに引っ張られると思うんで す。例えば、椅子を考えた時に、いくらボロボ ロの木の椅子でも、不思議と惹かれる椅子 には勝てない。これからそういう時代になると 思います。なぜかというと、今よりさらに仕事 の場に選択性ができて、ずっと同じ場所にい る必要がなくなるからです。そうすると人間の 欲として、エモーショナルなものがほしくなる。 -「エモーショナル」「感情に訴える」と いうのは、いいキーワードですね。 最近カンボジアに行って来て、 2 つの場所 に泊まったんです。 1 つは高級な大型ホテ ル。もう 1 つは小さなゲストハウス。その時に 気付いたのですが、大型ホテルにはいろい ろなところにソファが置かれていても、一度 も座ることなく自分の部屋へ行きます。とこ ろが、ゲストハウスの方は、どこも座りたくな るような場所ばかり。大型ホテルの方はオブ ジェクトが置いてあるだけで、「居場所」とし て設計されていないんですよ。ゲストのこと をちゃんと考えた気持ちのいい場所をつくっ ている方に、より豊かさを感じました。いくら 小堀さんが描く「 NICCA イノベーションセンター」の イメージ。 best practice for work place VOL.27 | APRIL 2018 TETSUO KOBORI
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