photo & portrait: Nacása & Partners
Interview_Case 01
全力で走りながら、
「働く」にまつわる
楽しさを伝えたい
藤本 あゆみ
一般社団法人at Will Work 代表理事
Plug and Play Japan株式会社
マーケティング/コミュニケーションディレクター
「“働き方”を選択できる社会へ」を合言葉に、この国の働き方改革を加速させる一般社団法人at Will Work の代表理事として活躍している藤本あゆみさん。複業を実践している藤本さんは、スタートアップを支援しイノベーションを創出するPlug and Play Japanに2018年の春から勤めている。その拠点でありコワーキングスペースやシェアオフィスのある「Plug and Play Shibuya」でお話をうかがった。
半径5mから始めるという
フットワークの軽さも大切
—まずは藤本さんたちが立ち上げた、at Will Workという組織についておうかがいします。
社団法人にしたのは、NPOだとカテゴリーに縛られるし、多くの理事が必要だから。5人の組織にしたのは、コアなメンバーが少数だと、巻き込めるメンバーが増えて、もっと面白いことができると考えたからです。色の付かないフラットな立場でモノを言えるのもいいと思います。私はここPlug and Play Japanでマーケティングとコミュニケーションの仕事もしていますから、複業というスタイル。他のメンバーは社長や個人事業主ですね。普通の企業では複業を認める際に、2つのうちの仕事の比重がどちらが何%かといった取り決めで、給与や社会保障的なことを決めているかもしれません。でも私の場合は特にどちらが何%ということはないですね。チームでコミュニケーションを取りながらお互いにカバーするというスタイルにしています。
—フレキシブルに仕事のできる形態にしているのですね。
at Will Workは、私は東京でもう一人の共同代表は大阪にいますし、みんなあちこち動いているので、会って顔を合わせることはほとんどありません。でもオンラインではいつでもつながれますから、バーチャルにリモートワークしている感じです。性善説と言うと変かもしれませんが、みんな大枠のところを外さないでそれぞれに判断して意思決定できる組織なので、物事を進めるスピードは早いです。その方がみんなにとってハッピーですしね。私たちがそんな感じで上手くやっていますから、大きな企業さんから相談を受けた時に、「まずはチームという小単位でやってみませんか」と提案したりします。まずは10人くらいでやってみましょうというのと、1万人が一斉にやりますというのでは大きく違います。「半径5mから始めませんか」という話をよくしています。
—面白いですね。その方が圧倒的なスピード感もありますよね。
堅苦しく考えなくても、一人だけ変えるところからでもいいと思うんです。まずは働き方改革担当の人が、「私は今週テレワークします」と始めてみる。とにかくやってみないと分からないことがたくさんあります。私は以前、会社に勤務していた時に、世界一周旅行をしながら仕事をした経験があります。その際に、テクノロジー的にはどこでも仕事ができると考えていても、実際に一人だけ外に出ると、とても仕事がしにくかったんです。ミーティング終わりにみんなで廊下を歩きながらガヤガヤ雑談する瞬間もないですし、なんとなく情報を共有できる場も時間もない。そんな疎外感も、実際に体験してみないと分かりませんよね。
「Plug and Play Shibuya powered by 東急不動産」は、渋谷駅徒歩約4分の好立地。コワーキングスペースには、さまざまな設えが施されている。
多様性があり選択肢がある
働き方を考えていきたい
—実体験って大きいですね。そういう意味では、働き方改革の実例を全国から集めたat Will Work主催の「Work Story Award」は、とても面白いですね。
世の中に働き方のアワードはたくさんありますが、それでもみんなが「事例が足りない」と言います。それは、今までのアワードが賞としてスゴすぎるからではないか? と話していたんです。「新しいことをやるぞ!」と意気込んで力強く推進したことでなくてもいい。最初は消極的な理由からスタートしたり、小さく始めたケースも多いのではないかと思いました。「そんなことでもいいんだ!」と思えるようなストーリーを募りたいと考えて、「Work Story Award」という名前にしたんです。5年間に100のストーリーを選ぶので、1年で20ストーリー。中には個人審査員が独断と偏見で選ぶ賞もあって(笑)、個人の視点もグループの視点もそれぞれに生かされたユニークな選び方になっています。そこから働き方というものは本当に多種多様で、一つの型にはめて解決するものではないと感じてもらえたらうれしいですね。そんなふうに感じたり体験を共有できる場がアワードで、その先にカンファレンスがあります。
—年一回開催されているカンファレンスも大好評ですね。
アワードもカンファレンスも、多様性ということは大事にしています。「カンファレンスのテーマって、働き方改革ですよね?」とよく聞かれますが、あまりそういうつもりもありません。「働き方改革をしなければいけない」というトーンにしたくないんです。必要ならすればいいし、必要なければしなくてもいい。経営戦略の中で、どうすればパフォーマンスが上がって生産性を高められるかは、まさに人それぞれです。朝型の人も、夜型の人もいます。すごく考えてから動く人もいますし、私みたいにとにかくやってみるというタイプもいます。型にはめたところで同じパフォーマンスが平均的に出るかといえば、全然違うと思います。多様性があって、「この人はこういう働き方がいいよね」と実感してもらうのがいいと感じます。そうした多様性を考慮して、カンファレンスには働き方について一度も話したことがないという人にも登壇してもらっているんです。
期間限定というスタイルで
仕事と社会を加速させる
—今後のカンファレンスもとても楽しみですね。
でも、カンファレンスもアワードも、私たちが主催するのは5年で終わるんです。この社団法人自体を5年限定と決めているんですよ。守りに入らず、新しいことをどんどん進めたい。5年活動しても働き方に変化がないとか、選択肢の幅が生まれていなかったら意味がない。だから、その間は全力でやろうと考えているんです。その後は解散でも、カタチを変えても、誰かに譲渡してもいいと思っています。「続けない」ということを一つのコンセプトにしていますね。
—そうですか! 驚きました。それは潔いですね。
ですから、カンファレンスの一回一回もすごく大切にしていて、テーマを毎回変えているんです。企業って、どちらかというと「続ける」ことを重視しますよね。例えば、一つの働き方プロジェクトで、検討に3ヵ月、検証に1年、実際にプランニングして動くまでに3年かかっちゃいました…となるようなことも多いでしょう。でも3年経ったらもっと社会が変わっているはずなんですよね(笑)。時期がずれちゃったけどやりましたというのでは、もったいないです。だからこそ私たちは、遠慮なく思い切りやろう、先に行こうというコンセプトで、一緒に先に行きましょうと声を上げていきたいです。
—なるほど。そうした組織や仕事のスタイルが、私たちに新しい働き方の可能性を見せてくれるかもしれないですよね。
そうなんです。だから私たち自身が一つの実験台だと言っていて、at Will Workで体験していることはどんどん情報発信していますし、私たちが体験していない情報はアワードやカンファレンスで集めています。ですから、働き方で困ったことがあった時、ここに来ると何かのヒントはあるよね、という感じで親しんでもらえたらいいですね。
「Plug and Play Shibuya」には、さまざまな使い方のできるステージがあり、イベントなども開催されている。
細部にある核心に気づいて
みんなでニヤッとできたら楽しい
—こんなに働き方が注目される時代になって、どの企業や組織でも、改革するなら今っていうところもあるんでしょうね。
今がいちばん働き方の過渡期でしょうね。これまでは終身雇用も含めたシステムが機能していたはずですが、社会が変わり、世界が変わり、その真っ只中に日本がある。こんなに変わる時代にいて、変えることに携わることができる。今の時代を楽しみながら、その先の未来へ続く働き方を創造できるなんて、とても面白いなと思っています。
—その一方で、働き方改革と聞くと「またか」「なんだよ」とネガティブに反応する人も若干いますね(笑)。
来年の2月に開催するカンファレンスのテーマが、「働くをひもとく」。今までの時代を築いてくださった方からもいろんなお話をうかがう予定です。今は「とにかく新しい働き方にしなければいけない」みたいな風潮ですが、昔の日本の働き方がダメだったということではないですよね。ですから、「どうしてこのしくみができたのか?」などの時代背景を知れば、もっとこの時代にも活用できるし、変えなくていいことも見えてくると思っています。日本の働き方やオフィスの歴史を話せる方々にもご登壇いただいて、次の時代のステップにしたい。企業によっては終身雇用制をキープするところがあっていいでしょうし、いろいろな選択肢のあることが大切だと思っています。
—決めつけない、選択肢があることは重要ですね。ところで、多くの企業のいろいろな働き方を見ていく中で、特に面白いと思ったことは?
働き方改革を実現したという企業で、実は全然外に出て来ない部門の、この人がキーマンだったみたいなこともあるんですよ。その人の強い想いが今につながっている話を聞くと、外から見た企業のイメージとは違うと感じることもありますね。どうしても分かりやすいトピックスばかりにスポットが当たりがちですが、細部にある核心に気づけると楽しいですね。「私は見えたよ」みたいな瞬間。パッと見は分からないけれど、そこに隠れていた「企み」や「こだわり」にみんながピンポイントで気づいてニヤッとするような瞬間が、もっと世の中に増えたら面白いなと思います。
ランチやコーヒーブレイクにも気軽に使えるキッチンエリアも用意されている。
いろんな人が気づけるような
「企み」を続けていきたい
—ありがとうございます。オフィスについてもうかがいたいのですが、デザインという視点で何かお話しいただけますか。
デザインにはその会社の文化やこだわりが反映されますよね。なんでもいい訳ではなく、こだわりが個性になり、メッセージになるから、やはりデザインって大切だと思います。その背景を社内の人や誰かに分かるように説明できることも大切でしょうし、その時に使う言葉も重要になるでしょう。言葉じゃなくてキャラクターにした方が、より伝わる場合もあるかもしれません。例えば、働き方改革のポスターを作ってみても、それぞれ全然違うはずなんですよね。そんな展示会をしてみるのも楽しそうですね。
—働き方改革のポスターなんて、ユニークな視点ですね。今日は面白いお話ばかりでした。最後に、藤本さんご自身が大切にされている考え方を聞かせてください。
他の人ができることは、自分がやらなくていいと思っているんです。他でやれないことは、そのユニークさに価値が出ます。カンファレンスの登壇者の組み合わせなども、他所ではやっていないものにしたいと、すごく調べますし考えますね。そうしたことが私の「企み」。面白いことをいろんな人に気づいてもらえるような「企み」を続けたいですね。楽しくないと、みんなやりたくないじゃないですか。必要だから辛くても頑張りますというのは、あまり好きじゃないですね。楽しい情報、いい情報を広げて、みんながもっと活用できる社会になるといいな、社会が変わるためのきっかけづくりができたらいいなと思っています。そのためには、自分が何をするために存在しているのか、根底的なことを自らに問い続け、走りながら考えていきたいです。とにかく全力で走っていたら、道が拓けていた。そんな人になれたらいいですね。
ふじもと・あゆみ
1979年、東京都生まれ。東京経済大学コミュニケーション学部卒業後、2002年にキャリアデザインセンターに入社。2007年にグーグルに転職。同社初の営業部女性マネージャー、人材業界担当統括部長を経て、2014年より女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当として従事。同社退職後の2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。株式会社お金のデザインでのPRマネジャーを経て、2018年3月、Plug and Play Japan株式会社でマーケティング/コミュニケーションディレクターとしての新たなキャリアをスタートさせた。