Happy Workplace Programとは

2014年4月に開催したHappy Workplace東京セミナーにて
──前編、中編ではお二人の現在にいたるまでの経緯をお話いただきましたが、後編では現在の具体的な活動について詳しく教えてください。まずHappy Workplace Programとはどういうものなのですか?
大和茂さん(以下、茂) 「Happy Workplace Program」とは、タイ政府専門機関タイヘルスが開発した職場健康づくりプログラムの総称です。具体的には、タイの文化や価値観を多分に反映させた「Happy8」と呼ばれる下記8つの項目から構成されており、これらの多面的なアプローチを通して、従業員の身体的・精神的な健康増進及び幸福度向上を目指しています。
■Happy8とは
1.Happy Body:心身共に健康な体を作る
2.Happy Soul:道徳心と信頼を培う
3.Happy Relax:リラックスする時間を持つ
4.Happy Heart:親切心と思いやりを持つ
5.Happy Brain:生涯学習を促進する
6.Happy Money:適切なお金の管理をする
7.Happy Family:社員の家族にとっても幸せな環境を構築する
8.Happy Society:充実した社会の実現及び周りの人をいたわる
タイ社会において「Happiness(幸せ)」という概念は、とても重要視されています。例えば、タイ政府として「幸せ」をタイ国民の「健康」を構成する重要な要素の一つと位置づけています。これを職場という観点で考えてみると、「Happy8」は、快適で健康な職場の基本コンセプトと言えます。また、上記7の「Happy Family」や8の「Happy Society」があるように、従業員本人の健康や幸福だけではなく、従業員の家族や会社を取り巻く地域社会も「Happy8」の対象となっていることも特徴です。
大和亜基さん(以下、亜基) タイヘルスが公式発表している「健康づくりに関する10ヵ年計画」の中に「国民の幸福度向上」を明確に謳っているくらいですからね。
タイヘルスの公式プロジェクト責任者
──茂さんはそのHappy Workplace Programをタイ国内外の多くの組織に普及させるために発足した「Happy Workplace International Project」の責任者ということですが、具体的にはどのような活動をしているのですか?
茂 「Happy Workplace International Project」チームは日本人とタイ人の専門家で構成されており、在タイ外資系企業の外国人経営幹部への説明やHappy Workplace Program導入に伴う支援をしています。特に、タイの外資系企業の中でも会社数が多い日系企業へのアプローチには力を入れています。また、海外におけるタイヘルスやHappy Workplace Programの情報発信も私の重要な役割の一つで、海外の国際会議や各種メディアを通した情報発信にも注力しています。アジアを中心とした各国の保健省担当者や国連のWHO(世界保健機関)などがタイの職場健康づくりを視察に来た際の対応や協業検討なども私が担当しています。

タイヘルスを訪れた東南アジア各国の保健省幹部やWHO(世界保健機関)職員にHappy Workplace Programを説明する茂さん
──現在Happy Workplace Programを導入している企業はどのくらいあるのですか?
茂 継続したPR活動のおかげで、タイ全土で、民間企業、政府系組織、大学、寺院など含めて2000組織は超えています。しかしながら、導入している組織の特徴の一つとして、タイ人の経営トップが、タイヘルスとHappy Workplace Programの理念に強く共感し、経営戦略の一つとして同プログラムを推進しているということが挙げられます。一方で、外国人が経営トップに付いている在タイ外資系企業においては、未だに普及は限定的というのが実情です。昨年一年間をかけて、ようやく一部の在タイ外資系企業の外国人経営層にも正しく認知してもらえるようになりましたが、今後もより多くの経営層に知っていただく機会を作りたいと考えています。
具体的な普及活動
──タイの国内でHappy Workplace Programを導入する会社を増やすために具体的にはどういうことをしているのですか?
茂 大きく2つあります。1つは在タイ外資系企業で働く外国人経営層の意識喚起を目的とした取り組みです。具体的には、定期的に経営層向けセミナーやワークショップを英語または日本語で開催しています。セミナーでは、タイヘルスが取り組んでいるHappy Workplace Programの理念や導入事例などを紹介しています。また、講演会や国際会議などに呼ばれることもありますので、そのような機会も活用し、できるだけ多くの方々にHappy Workplace Programの情報を届けることを心がけています。もちろん、必要に応じて経営者を個別に訪問し、英語や日本語で丁寧に説明を行い、タイで働く外国人経営層が持つ疑問にしっかりと回答するようにしています。もう1つは、メディアや学術論文を通した情報発信です。例えば、タイの日本人向けビジネス誌などからご依頼をいただき、Happy Workplace Programに関する記事を執筆しています。また、研究者としては、日本産業衛生学会などの学会誌に研究論文という形でHappy Workplace Programを紹介することも行っています。
Marimo5の活動
──「Marimo5」ではどのような活動をしているのですか?

Marimo5が提供する社員食堂のシェフ向けトレーニング
茂 企業などにおいて、タイ人従業員の健康づくりを実現するための健康教育プログラムを開発・提供するのがMarimo5の主たる取り組みです。具体的には、「食」に軸をおいており、従業員向け食育ワークショップや社員食堂がある企業様向けには、社員食堂シェフトレーニングや健康メニュー開発などのサービスを提供しています。また、職場健康づくりに関係する企業との商品・サービス開発なども今年は力を入れています。
亜基 夫と一緒に事業を始めて職場訪問の機会が増えたことで、タイにおける肥満人口の多さに驚きました。最近の調査では国民の4分の1が肥満という結果が出ています。その肥満問題をなんとかしなければならない、そのためにこれまで私個人やMarimo5で取り組んでいた健康や食育に関する活動が役に立つのではないかと考え、サービスとして提供しはじめました。
──Marimo5におけるお二人それぞれの役割は?
亜基 役割分担という意味では、食育ワークショップなどをタイ人栄養士や専門家と一緒に実際にオペレーションするのは基本的に私が担当しています。その他サービスも「食」に関する部分は、私が中心となって開発しています。あとはウェブサイトやSNSを活用した情報発信などの広報活動は、私が担当しています。
茂 私の方は、経営全般に加え、政府や企業との提携交渉、国際展開に向けた戦略立案、新たなビジネススキーム構築などを担当しています。

NHKにも取り上げられた昨年9月の経営層向け食育ワークショップの様子
具体的なソリューション
──具体的には企業にどのようなソリューションを提供しているのですか
亜基 基本的な考え方は、「健康教育+適切な機会」の提供です。「健康教育」とは、従業員向け食育ワークショップや社員食堂シェフ向けトレーニングなどが挙げられます。「適切な機会」とは、社員食堂における有機野菜サラダの提供や、健康的なメニュー開発など、従業員が健康教育で得た知識に基づき、より健康的な行動に移す際の機会と考えることができます。例えば、私どものお客様の一つでもあるのですが、約3万人の従業員を抱える電子機器メーカーから社員食堂改革を任された際には、従業員向け食育ワークショップと一緒に、有機野菜サラダバーを設置しました。タイ料理は大量の油や砂糖を使ったメニューが多いので、脂質の吸収を抑える効果のある生野菜を食べてもらおうと思ったからです。ただ「サラダ」という形式で野菜を食べる習慣がないために、まだまだ工夫が必要で、現在も同社の副社長や社員食堂責任者などとともに話し合いを重ねながら改良をしています。
また、「職場におけるヘルスステーション」というコンセプトも今後重要視していくソリューションの一つです。タイの工場の中には、社員食堂や社内コンビニがある会社も多く、従業員が毎日訪問する場所の1つとなっています。そこを「社員と健康を繋ぐ場所」として位置づけ、健康的な商品(野菜ジュース、低糖ヨーグルト、無糖のお茶等)や健康機器(体組成計や血圧計等)を用意することで、各メーカーにとっては、健康的な商品の認知度向上や職域販売につなげると同時に従業員を健康にしたい企業にとっては健康的な企業風土を醸成していくことができる取り組みとして力を入れています。
──Marimo5という社名の由来は? 北海道のあのマリモから来ているのですか?

亜基 そうです。マリモはきれいな水と空気と太陽の光が注ぐ所でしか育たないすごく貴重な生物で、元々私たちが扱っていた野菜や米やフルーツ、また今の事業でいえば、私たち人間が働く職場にこそマリモが育つような環境が必要だというところから名づけました。「5」は初期メンバーが5人だったことを忘れないようにとつけました
仕事のやりがい
──現在の活動のやりがいは?

茂 一番大きなやりがいはやはり、私たちの活動がタイヘルスの方向性と合致した形で、タイ人の職場健康づくりに貢献できているということですね。特に、Happy Workplace Programを企業の経営戦略の一部として位置づけて、経営陣と従業員が共により良い会社を創り出していくためのお手伝いができるということはとても嬉しいことです。
また、現在は、Happy Workplace Programの普及・推進をタイ中心に行っていますが、今後はアジア、そして世界に広めていくという前提で取り組んでおり、その方針に連動する形で、Marimo5としてもより充実した職場における健康教育プログラムやサービス開発を考えています。常にグローバルな視点を持ちながら仕事ができていることも大きなやりがいですね。私は元々海外志向が強かったので。
亜基 肥満の人は体のどこかに不調を抱えてつらそうな人が多いのですが、例えばある肥満の人からプログラムを3ヶ月ほど体験した結果、体重が5キロ減って手すりなしで階段を上がれるようになってうれしいという言葉を聞くと、本当にこの仕事をやっていてよかったなあと思います。
また、私たちは描いている世界がすごくクリアなので、そこに共感をして集まってくれている人たちとの時間がすごく幸せなんですよね。
夫婦で共有している最終的なビジョン
──描いている世界とは具体的には?
亜基 「働く人々が、職場を活用して健康を維持でき、自分のことを好きでいられる状態」です。そういう世界を作りたいので、私たちと同じ想い・願いを持っている企業の社長などと出会えると本当に幸せだなと思います。
従業員の健康と幸せのために一緒に頑張ろうと言ってくださる方々との時間ってすごくエネルギッシュですばらしいものです。そして、同じビジョンを共有し、同じ未来を見ている方々と行動し、今まさに物事が動いていく、状況が変わっていくということを体感できていることもすごく大きなやりがいだし、本当にいい仕事を見つけられてよかったなとつくづく感じています。もっとも大変なことの方が圧倒的に多いですけどね(笑)。
──そのたいへんなこと、つらいことは具体的には?
亜基 本業がある中で、従業員の健康づくりに積極的に取り組みたいと私達の活動に理解・共感してくださる経営者の数は、全体の数に対する割合でいくとまだ少ないことですね。
──理解されないことが続くとモチベーションが下がったりはしないのですか?
茂 いえ。理解されないことに関して落ち込むということはないですね。「Happy Workplace Program」や「職場健康づくり」という考え方は、新しいコンセプトなので、無理に導入していただくというよりも、理解、共感してもらえる経営者の方々とムーブメントを作っていくことを優先させたいと考えています。数年後には、Happy Workplace Programがアジアの代表的なモデルとなり、経営者であれば誰もが従業員の健康、そして自分自身の健康にしっかりと投資できる環境づくりを目指しています。
<$MTPageSeparator$>国民性を理解していちいち落ち込まない
──亜基さんの方はつらいことは?

タイの企業で働く従業員に食と健康についてレクチャーする亜基さん
亜基 起きることが想定外のことだらけということでしょうか。例えば先ほどお話したある企業の社員食堂改革のときも、先方の担当者と事前に綿密に打ち合わせしてサラダバーを設置する場所に必要な道具などを準備しておくようにお願いしていても、当日何の準備もされていないばかりか、私の入館手続きがされていなくて当日会社内にスムーズに入れませんでした。タイではこういうことは日常的に起こるんです。でも笑顔で謝られるとついつい「大丈夫よー」といって、そこから準備を始めてしまう私もいます。
──タイ人の気質もあるのでしょうか。
茂 あると思いますね。ただこればかりは本当に人によるところで、優秀な方はとても優秀ですし、日本人でも同じですよね。でもタイにおいては、基本的に物事が想定通りいかない可能性が高い、ということは常に意識しておかないといけないなぁと感じています。
亜基 問題が起きたらそこで立ち止まって悩まず、すぐにどうすべきかと解決する方向にシフトします。例えば先ほどのケースでは、テーブルがないという事実が判明したとき、担当者になぜないのかという理由は問い詰めず、できるだけ早くテーブルを用意してくださいと粛々と落ち着いたトーンで伝えます。
夫婦で一緒に働くということ
──お二人は夫婦で同じ仕事をしているわけですが、仕事もプライベートもいつでも一緒というのはいかがですか?
茂 今住んでいる場所が、1階がオフィス兼コミュニティスペースで2階が寝室やリビングがある住居スペースというタイ式の一軒家です。そういう職と住が同じ場所という環境で1年やってみたわけですが、いい面も悪い面もありますよね。いい面はいつでも話ができるので今日気づいたことを土日関係なくすぐ仕事に活かせたりと日々物事が進んでいくことですね。
──プライベートな時間でも仕事の話をよくするんですか。

茂 はい。仕事とプライベートが重なっている点も多いので、土日に出かけるときも何かヒントがありそうなところへついつい行きますよね。例えば、オーガニック野菜のサラダが有名なレストランに行こう、オーガニックコーヒーやお茶を出しているホテルでお茶をしよう、ゴルフであれば、このコースは、歩いて回ると結構な運動になるので、効果的なウォーキングワークショップと連動させたゴルフ大会にオススメだなとか。タイの国立公園として有名なカオヤイで行われたカオヤイハーフマラソン大会に参加した際も、走りながら「マラソン大会の運営方法をどうすれば職場の運動推進キャンペーンに活かせるか」など、やっぱり考えてしまいますよね。
亜基 「食」関係の仕事が多いので、どこかのレストランに一緒に食事に行った時も「このメニューは食育に活かせるんじゃないか」とか「こういう取り組みは今度タイヘルスに伝えてみたらおもしろいんじゃないか」「次のプロジェクトに使えるんじゃないか」とかそんな話ばかりしています(笑)。
──では仕事とプライベートが重なっていることや土日に働くこともストレスに感じないんですね。
茂 亜基 全く感じないですね。
茂 むしろ実現したいことに向かって進んでいることはうれしいことですよね。ただ、ずっと仕事モードというのはよくないので、毎日ジョギングやヨガをしたり、週末はゴルフやマラソン大会に出たりして、リフレッシュしています。
亜基 でも彼はジョギングやゴルフ中も突然「いいアイディアが閃いた! 忘れないように言っておくね」と私に話し出すんです。私もそれを聞いたらいろいろ考えを巡らせたり。こういうことはよくありますね(笑)。
衝突もメリットのひとつ
──やっぱり仕事から離れてないじゃないですか(笑)。しかしそこまで密接な関係なら衝突というかケンカなどはしないのですか?
茂 常に私たちはすぐ何でも言い合える状況にあるし、とにかく何かにつけてよく話し合うので、その分ケンカというか衝突は絶えません(笑)。でも私たちは同じビジョンを共有し、本気で成功させたいと思っているのでそれもメリットなんですよ。衝突から反省をすることで学びもありますし、結果的に、よりよいアイディアが生まれればビジョンの実現により一歩近づけるわけですから。

亜基 その点は私も大きなメリットだと感じています。私たち2人の人生の未来に繋がることを大事な人と本気で進められるというのは最高ですよね。夫婦でビションを共有できているというのは本当に幸せなことです。
やっぱり同じビジョンを共有するパートナーってすごく大事だと思うんですよ。他人同士であれば信頼関係の醸成にはすごく時間がかかると思いますが、夫ですからこの人で本当に大丈夫かという余計な不安や心配は一切いらない。お互い絶対に裏切らないという信頼感は絶大で、それがあるからこそとにかく今、自分がやるべきことに専念できる。そういう意味でもすごく大きなメリットだと思いますよね。
茂 もうひとつの大きなメリットとしては、お互いの得意分野が違うので、役割分担ができて助け合えるということですね。例えば広報やコミュニケーションの部分などはもともと広報が本職だった妻に全部任せられるので私は私の得意分野に専念できます。もし私一人でやっていたら、あまり得意でない分野の仕事も自分でやらなきゃならないので大きな負担になりますよね。
亜基 私は2人で同じ温度感で同じことに取り組んでいるからストレスやつらさも半分になっているのが助かっています。例えば社員食堂の改革のとき、サラダバーを設置して愛情を込めてサラダを作ったのですが、中にはお気に召さないタイ人の従業員も少なからずいました。そんなとき、もし1人ならすごく落ち込んで悩んでしまうと思うのですが、夫がいるので一緒にサラダがおいしいと評判の店に行って、サラダの見せ方、調理の仕方の違いを意見交換して自分たちに足りないものと改善案を検討するなど、すぐ次にどうすべきかという方向に動いています。これも夫と2人で同じ仕事をしていることのメリットですよね。
<$MTPageSeparator$>夫婦で一緒に働くことのデメリット
──では夫婦で同じ仕事をすることのデメリットは?

茂 私の場合は1人の時間が絶対に必要なんです。1週間のうち1日でも半日でも、自分1人だけで考える時間がほしいんです。会社員のときは通勤があるので1人の時間がある程度作れるのですが、今は仕事場も住居も同じなので、常に妻と一緒です。ですから自分の時間を意図的に作る必要があるということがデメリットですね。
亜基 私の方はずっと夫と一緒でも全然いいんですよ。いくら一緒にいても煩わしいとか1人になりたいとか全然思いません。だから私が煩わしいと思われないように夫に1人の時間を過ごしてもらうように気をつけています。そうしないと本当に気づかないので(笑)
ワークライフバランスについて
──ご夫婦で同じ仕事をしているお二人には愚問かもしれませんが、ワークライフバランスについてはどのようになっていますか?
亜基 それはすごくいい質問ですね。ワークライフバランスについて語るとき、「仕事をしている時間が長いことがいけないのか」という議論になりがちですが、私はそこに他人からの強制ではなく、自分の意志とコントロールがちゃんと及んでいて、睡眠とバランスのいい食事をきちんととっていれば、特に問題だと思っていません。
私たちは、仕事に費やしている時間は一般的な人に比べて長いかもしれませんが、しっかり寝ていますし、バランスのいい食事を3食とっているので体調を崩すこともなく心身ともに健康的な生活を送っています。このように基本的な人間としての健康的な生活が成立していれば、ワークライフバランスは取れていると言えると思います。

茂 私自身、今は、経営者なので、ワークをいくつ、ライフをいくつにしてバランスを取るという感覚は、あまり持たないようにしています。ワーク=ライフですから。平日でも土日でも重要なことがあればやります。ただ、健康や仕事の効率の観点からも、やみくもに長時間働くことが良くないことは明らかですから、積極的に運動したり、タイマッサージに行ったり、美味しいものを食べたりしています。また、経営者と従業員の視点は違うと思いますし、ワークライフバランスのコンセプト自体はとても重要なので、Marimo5の従業員は、基本的に完全週休2日制で残業は一切なしとしています。
アジア特有の職場健康づくりを
──今後の活動予定や目標を教えてください。
茂 私たちの目標は「職場健康づくり」を浸透させて、企業が「経営者や従業員の健康増進」に投資を行い、働く人々が職場を通して健康になる、という社会を実現することです。そのためにまずはタイにおいてHappy Workplace Programを少しでも多くの経営層に認知してもらい、導入してもらうべく活動を進めていきます。2015年からの3~5年は、アジアの文脈を踏まえたリージョナルフレームワークづくりに専念したいと考えています。どういうことかというと、現在、職場健康づくりの指針は、その多くが欧米から入ってきています。例えば、国連の世界保健機関(WHO)が提唱している「Healthy Workplace Model」も素晴らしいコンセプトではありますが、アジアの文化や価値観を踏まえると、改良の余地はあると思います。
今後の目標

巨大なショッピングモール「セントラルワールド」にて開催されたイベントでのワークショップ
茂 まず、2016年2月にバンコクで開催予定の「Happy Workplace International Conference」の準備を進めて行きます。タイと日本を中心に他のアジア、欧米、アフリカなどの国々からの経営者や専門家たちが参加するこの国際会議では、タイ政府が推進するHappy Workplace Programをアジアのモデルとして発表する予定です。また、他の国で展開されている職場健康づくり取り組みや課題などに関して議論を行い、アジアにおける職場健康づくりとはどうあるべきかという意見を集約。それを、パブリックコメントとして、各国保健省、国際機関、経済団体などに提言しようと考えています。
次に、職場健康づくりの専門家を育成する職業訓練学校をタイに設立したいと思っています。日本と比較してまだまだ職場における健康管理に携わることができる人材は限られていると感じているので、私たちが考える、職場健康づくりの専門家を自ら養成したいと考えています。
最後は、現在従業員と健康をつなぐ拠点である「職場におけるヘルスステーション」を設置していく取り組みをしていますが、この数を増やすとともに内容を充実させて職場における健康情報発信基地になるようにデザインしていきたいと考えています。ヘルシーなドリンクや食品を販売するほか、従業員が体組成計や血圧計などを無料で自由に使えたり、健康や食育につながる情報が得られたりする、従業員の健康意識が高まるような拠点を通じて従業員の方々の健康意識が高まることを願っています。
──日本で活動する予定は?
茂 あります。今年は、まず、5月14日に大阪(グランフロント大阪)で開催される第88回日本産業衛生学会にてランチョンセミナーを主催します。ここでは「職場健康づくりを通したQuality of Working Lifeの向上」というテーマで、私が講演をします。また、今年10月には、NPO法人Asian Healthy Workplace Institute(仮称)を日本にて設立予定です。これは、今後益々タイと日本を中心としたアジアにおいて事業展開を行う企業が増えることを鑑み、各国単体ではなく、「アジア」というリージョナルな視点での職場健康づくりフレームワーク開発やルールメイキングなどを行うためです。今後は、日本本社の従業員だけではなく、アジアを中心とした海外拠点の従業員も含めた職場健康づくりを会社が推進していくための環境づくりが必要になってくるのではないかと考えています。この取り組みを推進していくには、賛同していただける企業や個人の方の協力が必要です。ご興味がある方は、是非、ご連絡をいただけますと幸いです。