ハイ パフォーマンス メッシュ
オカムラが2002年に発表した「コンテッサ」において、日本で初めてオフィスシーティングの背と座に採用されたメッシュ素材。
その開発と改良のプロセスには、メッシュの供給元である川島織物セルコンとオカムラとの数々のストーリーがありました。
オカムラが2002年に発表した「コンテッサ」において、日本で初めてオフィスシーティングの背と座に採用されたメッシュ素材。
その開発と改良のプロセスには、メッシュの供給元である川島織物セルコンとオカムラとの数々のストーリーがありました。
世界各国のメーカーが最新のオフィス家具を披露する場として、ドイツ・ケルンで2年に1度開催される国際見本市「オルガテック」。オカムラが2002年に初出展を果たした時に発表され、一躍、高評価を得たのがオフィスシーティング「コンテッサ」だった。世界に通用する椅子として開発されたこの椅子は、新開発のメッシュ素材を座面と背もたれに採用し、従来にない機能と外観を実現する。当時、オカムラは、以前から椅子張り用ファブリックの供給元であった京都の織物メーカー「川島織物セルコン」と手を組んで、メッシュに関するノウハウがあまりない状態から、日本発の革新的なメッシュシーティングをつくり上げたのだ。
1843年創業の川島織物セルコンは、西陣織にルーツをもちながら、明治時代から室内装飾のためのテキスタイルを積極的に手がけてきた。しかし同社にとっても、椅子張り用のメッシュ素材の開発は容易でなかったという。当時の状況を知る同社の池田浩之は語る。
「この企画が始まる前から、椅子張り用のメッシュ素材は開発を進めていましたが、初期の試作品は強度と意匠性において、満足いただけるレベルではありませんでした。体重を支えてもへたらない耐久性と、快適な座り心地をもたらす柔らかさは、相反する要素。両立するのがとても困難でした」
それでも、自社工場で多くの工程を進める川島織物セルコンは、長年にわたり培ってきたノウハウを生かし、椅子用メッシュの実用化に成功した。
「当初はレース状のカーテンを作る機械を使ってメッシュを編んでいました。やがて『編み』ではなく『織り』でメッシュをつくることで、品質と生産効率を向上させていきました」
上/メッシュを製造する大型の織機。 下左/川島織物セルコンでメッシュ開発に携わったスタッフ。素材、織り、染色などいくつのも課題を乗り越えてきた。
下右/メッシュの座面には「張り」と「柔らかさ」の両立が求められる。
上/メッシュを製造する大型の織機。
中央/川島織物セルコンでメッシュ開発に携わったスタッフ。素材、織り、染色などいくつのも課題を乗り越えてきた。
下/メッシュの座面には「張り」と「柔らかさ」の両立が求められる。
メッシュの座面に耐久性と快適性をそなえさせるために、メッシュの織り方も試行錯誤を重ねた。「コンテッサ」をはじめとするオカムラのメッシュシーティングは、緯(よこ)糸に弾力と強度をもつオリジナルの弾性糸を使用。この糸を通常の経(たて)糸と織り、機能と共に上質な質感や触感を実現した。さらに背や座のフレームにメッシュ素材を張るテストも重ね、適度な体圧分散を追求したという。
オカムラからの要望は、「強度を保ちつつ、メッシュならではの透け感を出すこと。また、ブラック色だけでなく、カラフルな多色展開を要望されたことも苦労した点です。当初はカーテン生地の後染め手法と同様の手法でメッシュを染めましたが、その後は色彩に応じて糸の状態で色を染める先染め手法を取り入れるなど工夫をしました」と品質統括部の堀昭彦。オカムラのデザイナーのきめ細かい要望を、川島織物セルコンの技が叶えていった。
上/試作したメッシュを座フレームに張り込み、テンションや作業性を検証。
下4枚/メッシュに使用する糸は、小型の機械で試験染色した後、大型の釜で一気に染め上げる。
川島織物セルコンは、1843年(天保14年)に京都・西陣で創業。古くは明治宮殿から旧東宮御所(現:迎賓館赤坂離宮)、近年では京都迎賓館に織物を納入するなど、その品質は高く評価されている。伝統技術と先端技術を併せ持ち、着物の帯から緞帳、インテリアファブリック、室内装飾まで織物にまつわる幅広い事業を手がける。
綴織(つづれおり)
緞帳製織風景
西陣織の帯
2002年発表の「コンテッサ」が世界中で評価されてからも、メッシュシーティングは進歩を続けている。たとえば、2017年に初代コンテッサをリデザインして発表された「コンテッサ セコンダ」では、メッシュ素材の大幅な強度アップが図られた。オカムラの製品設計を務める益永浩は、こう話す。
「体重136kg(300ポンド)のオフィスワーカーが、24時間×7日間使用しつづけることを想定した非常に過酷な耐久試験を社内外で行っています。メッシュに適切なテンションを保持するため、背と座のフレームにメッシュをセットする際は、ミリ単位の調整が必要ですが、独自の張り機構で精度と強度を高めています」
メッシュの意匠性も様々な進化を遂げている。従来の格子状ではなく、グラデーション状に織ることで、部位ごとにメッシュのテンションを変えている。もちろん、素材の調達から、メッシュを製造し、椅子として組み立てるまで、すべての工程は日本国内で行う。オカムラのメッシュシーティングは、メイド・イン・ジャパンだからこその完成度を、今後もきわめていくことだろう。
上/世界水準の強度を確保する試験風景。 下左/意匠性と機能性に優れたグラデーションサポートメッシュ。 下右/メッシュ素材のチェックは細部に及ぶ。
上/世界水準の強度を確保する試験風景。
中央/意匠性と機能性に優れたグラデーションサポートメッシュ。
下/メッシュ素材のチェックは細部に及ぶ。