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2018.01.31  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

ロボットコミュニケーターという職業

──吉藤さんの肩書きは「ロボットコミュニケーター」ですが、そう名乗っているのはおそらく吉藤さんだけですよね。この肩書きにした理由は?

吉藤健太朗-近影1

まず、私はロボットを作りたいわけでもないし、ロボットの研究をしているわけでもないので、ロボットクリエイターでもロボット研究者でもないなと。私が本質的に取り組みたいことは「対人コミュニケーション」にまつわることなんですよね。私がミッションに掲げている孤独を解消するということは、人の間に入っていく方法を考えるということ。

つまり今までコミュニケーションがうまくできなかった人が何らかのツールを使うことによってできるようにしたい。私はコミュニケーターであり、人と人をつなぐ役割を担いたいと思ってこの肩書を作りました。

それに、「ロボットコミュニケーター」なんて名乗っているのは確かに私だけですが、職業だってこれからどんどん作っていけばいいと思うんですよ。単純に自分のやってることを正しく表現する職業が世の中になかったので作っただけ。「ないなら作る」が子どもの頃からの信条で、実際にやってきたことなので。

分身ロボット、OriHime

──吉藤さんが開発したOriHime(オリヒメ)とはどのようなものなのですか?

分身ロボット・OriHime 分身ロボット・OriHime

分身ロボット・OriHime

ひと言で言うと孤独の解消を目的に作った分身ロボットです。OriHimeにはカメラ・マイク・スピーカーが搭載されており、スマホやタブレット、PCなどからインターネットを介して操作して、会話したり、置かれた場所の様子を見たり、写真を撮ったりできます。また、首を上下左右に動かしたり、手を挙げたりと感情を表す簡単な動作もできます。つまり、このOriHimeを行きたいところに置いておくと、操作する人は家にいながらにしてあたかもその場にいるように会話ができ、その場にいる人たちもその人の存在を感じることができるんです。だからこのOriHimeは距離や身体的問題によって行きたいところに行けない人にとってのもう一つの身体なんです。

コンセプトは「心を運ぶ車椅子」。私は、身体は心を運ぶ乗り物だと認識していて、高校時代に車椅子を作っていたこともあって、そう表現しています。

孤独の定義

──OriHimeは孤独の解消を目的に作ったということですが、孤独といっても人によって違いますよね?

吉藤健太朗-近影2

確かに「孤独の解消」と言うからにはまず、孤独の定義が必要です。私にとっての孤独とは物理的に1人ぼっちであることは関係なく、自分は誰からも理解されない、必要とされていないと感じて、孤独だと思ってしまっている状態のことです。このような精神異常状態に陥らないために、また、陥ってしまっても、孤独を癒やしてそこから脱出すために何か方法を探そうと思ったのがOriHime開発の原点です。


──OriHimeという名称の由来は?

遠くにいる2人が繋がる織り姫と彦星になぞらえて名づけました。一番わかりやすいかなと。最初はノスタルジックデバイスとかいろいろ考えたんですがやめてよかったです(笑)。ただ、私の愛称がオリィなので、みんなOriHimeのことをオリィと呼ぶんですよね。これは私のミスです(笑)。


──どのような場所でどのような人に使われているんですか?

OriHimeが設置されているのは主に全国の特別支援学校、フリースクール、会社などで、操作しているのは問題を抱えて自宅から出られない子どもや難病で寝たきりになっている患者さんなどですが、最近は、育児や介護などで会社に行けない人が在宅テレワークで使用するケースが急激に増えています。あとは結婚式に出席できない人にもよく使われています。また、大学の研究室との産学連携、海外、トルコのシリア人大学、デンマーク大使館などでも使用されています。

結婚式(左上)、海外旅行(右上)、授業(左下)、飲み会(右下)など、さまざまなシーンで使用されている

結婚式(左上)、海外旅行(右上)、授業(左下)、飲み会(右下)など、さまざまなシーンで使用されている

テレビ電話との違い

──離れていてもお互いの顔が見られてコミュニケーションができるインタラクティブなツールとしては、すでにテレビ電話やスカイプなどがありますがそれらとの違いは?

根本的に、我々は電話やテレビ電話は用事がある時しか使わないんですよ。これは極めて重要なことです。電話するとまず「どうした? 何の用?」って聞かれますよね。以前、遠く離れた人とでも顔を見ながら話せるから寂しくないというテレビ電話のCMがありましたが、実際にやると30分も続かないんですよ。その場に一緒にいない場合、目的のない会話ってそうそう続くものではありません。

つまり、コミュニケーションにも用がある時と用がない時の2種類があって、学校でいえば用があるコミュニケーションは授業中、用がないコミュニケーションは休み時間や放課後ですよね。そこで友達と適当に遊んだり雑談したりする。そこにみんながいるから特に目的がなくても何かをするわけです。これまでの人生を思い返した時に、印象に残っている思い出って、意外と友達や家族と雑談したり遊んだりといった他愛もない時間だったりするんですよね。つまり用がないコミュニケーション、日常にこそ価値があるんです。

吉藤健太朗(よしふじ・けんたろう)

吉藤健太朗(よしふじ・けんたろう)
1987年奈良県生まれ。ロボットコミュニケーター/株式会社オリィ研究所代表取締役所長

小学5年生から中学2年生までの3年半、学校に行けなくなり自宅に引きこもる。奈良県立王寺工業高等学校で電動車椅子の新機構の開発を行い、国内の科学技術フェアJSECに出場し、文部科学大臣賞を受賞。その後世界最大の科学大会Intel ISEFにてGrand Award 3rdを受賞。高校卒業後、詫間電波工業高等専門学校に編入し人工知能の研究を行うも10ヵ月で中退。その後、早稲田大学創造理工学部に入学。2009年から孤独の解消を目的とした分身ロボットの研究開発に専念。2011年、分身ロボットOriHime完成。2012年、株式会社オリィ研究所を設立。青年版国民栄誉賞「人間力大賞」、スタンフォード大学E-bootCamp日本代表、ほかAERA「日本を突破する100人」、米国フォーブス誌「30Under 30 2016 ASIA」などに選ばれ、各界から注目を集めている。2018年、デジタルハリウッド大学大学院の特任教授に就任。本業以外でも19歳のとき奈良文化折紙会を設立。折り紙を通じて地域のつながりを生み出し、奈良から折り紙文化を発信。著作『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)にはその半生やOriHime制作秘話、孤独の解消に懸ける思いなどが詳しく書かれてある。

初出日:2018.01.31 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの