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2017.05.29  取材・文/山下久猛 撮影/那須川薫(スタジオ・フォトワゴン)
取材協力/一般財団法人C.W.ニコルアファンの森財団(一部写真提供)、
宮城県東松島市、児童養護施設支援の会

宮野森小学校、新校舎完成

2016年12月に竣工した宮野森小学校新校舎
2016年12月に竣工した宮野森小学校新校舎

2016年12月に竣工した宮野森小学校新校舎

前・東松島市長の阿部秀保氏

様々な困難を乗り越え、ついに2016年12月、市内最大規模となる防災集団移転促進事業の「野蒜ケ丘」(野蒜北部丘陵)地区に宮野森小学校の新校舎が完成した。新校舎は各教室や図書室、体育館まで国産の木材がふんだんに使用され、屋内に入らずとも建物の前に立つだけで木の香りが漂う。採光面積を広く取っていることで室内に陽の光が大量に差し込み、とても明るく温かい。裏手には整備されて生まれ変わった復興の森があり、正面からは海も見える。震災から6年、「森の学校プロジェクト委員会」が発足してから丸5年。行政、企業、大学、NPO、地域住民など志を同じくする老若男女が力を合わせて、理想とする"森の学校"を作ることができた。そして2017年1月9日に落成式が、10日に始業式が執り行われた。

前・東松島市長の阿部秀保氏は落成式の時のことが忘れられないという。「新校舎を目の前にして子どもと親御さんの笑顔を見た時に、この学校をつくってよかったなと心底思いました。木造校舎は子どもたちの動きが違いますよね。非常に生き生きとして木とじゃれ合っているように見えました。この木造の校舎では失われつつあるコミュニケーションが再び活発に行われ、生き生きと学べる。1月9日に校舎を歩いてそう感じました」

温かい木のぬくもりあふれる校舎で子どもたちも笑顔に

温かい木のぬくもりあふれる校舎で子どもたちも笑顔に

子どもたちが誇れる学校

元野蒜小の子どもたちは約6年間、仮設校舎に通っていた。校庭で思いっきり走ることもできないし、夏のプール授業は他の学校のプールを借りざるをえなかったため、6年生は自分の学校のプールに1回も入ったことがない。この6年間は子どもたちにとって非常に厳しい状態だったのだ。このようなことは当事者者でないとわからない。

元復興政策部部長の高橋氏

元復興政策部部長の高橋氏

「今の学校になってからは、子どもたちは休み時間になると校庭にぴょーんと飛び出していくんですよ。それがとてもうれしいんです。今まで子どものそんな姿は見られなかったから。何より子どもたちがこの学校を気に入ってくれて、誇りに思ってくれていることがうれしいです。自分の学校が大好きだという小学生ってなかなかいないですよね。この地域にはお母さんやお父さん、兄弟、親戚を亡くしたお子さんも大勢いて、心の痛手を抱えながら勉強してきたわけなんですが、この学校なら、そのようなすごく酷な体験をして非常につらい目にあってきた子どもたちが今まで苦労した分を取り返せるかなと。私もこれまで何とか子どもの笑顔を取り戻したいという思いでこのプロジェクトに関わってきて、省庁協議も含めて予算獲得、地域へ説明、業者変更など、その都度、1つひとつ課題をクリアしてここまでこぎ着けただけに、このような素晴らしい学校ができて本当によかったと思います。市としては教育への投資という、財政出動を伴いましたが、それにふさわしい学校ができたと考えています」

笑顔でこう語る元・東松島市復興政策部部長の高橋氏(現在は退職)も被災し、家族を失い、自宅は全壊している。自身も言葉にはとてもできないほどの甚大な傷を負いながら、東松島市のために、子どもたちのために歯を食いしばって文字通り懸命に、復興事業に尽力してきたのだ。

新校舎の校庭で伸び伸び遊ぶ子どもたち

新校舎の校庭で伸び伸び遊ぶ子どもたち

初出日:2017.05.29 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの