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2017.03.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

1番重要なのは接客

──特に荒木町のような飲み屋街だと競争が厳しいですよね。長くお店を続けていくために心がけていることは?

村田明彦-近影8

特にないっすね。何も考えてません。それは嫁がやってんじゃないですか(笑)。しいていえば、やっぱり店をやってく上で大事なのって接客でしょうね。主体はあくまでもお客さんなので、接客が1番だと思います。どれだけ料理がうまい店でも行列ができる店でも、やっぱり接客が悪かったら次に行こうとは思わないじゃないですか。料理のうまさっていうのは店によってそこまで変わらないと思うんですよ。ずば抜けてうまいという店ってそこまでないですよね。でも接客は店によって全然違う。だから接客が1番大事で店の生命線と言っても過言ではないと思うんですよ。


──接客も好きなんですか?

好きですね。だから自分はお客さんとよく喋ってます。なだ万時代はずっと厨房だったのでお客さんと接する機会ってほとんどなかったのですが、兄貴と母がやってる小料理屋もちょこちょこ手伝いに行ってたのでその時に経験はしてます。カウンターといくつかのテーブルだけの小さい店なので、仕事しながらお客さんと話すのはおもしろいなと思いましたね。

お客さんとの距離が近いと顔を直接見られるので、おいしい、まずい、おなかいっぱい、まだまだいけそう、体調があまりよくない、などの気持ちや状態を表情から察することができるのがいいんですよね。それによってこっちの対応が決められますから。


──なるほど。それでますますお客さんを満足させられると。お客さんに常に見られてることで緊張はしないんですか?

意外と緊張しないですね。料理人ばっかりがカウンターに並んで一斉にじーっと見られる時はわざと食材を切る手元など隠しますが、それでも全く緊張はしないです(笑)。自分の腕に自信があるわけじゃないけど、気取ってやってもしょうがないじゃないですか。

村田明彦-近影9

──接客で心がけていることは?

常連さんでも初めてのお客さんでも、どのお客さんに対しても態度を変えないようにしてます。常連さんとだけよく喋って、初めてのお客さんはほったらかしというようなことはしません。それと、お客さんとの距離感も大事にしてます。付かず離れずというか。もちろん、お客さんのキャラに応じて対応は変えますよ。例えばお喋りが好きなお客さんならとことん付き合いますし、あまり自分から喋らないお客さんには話しかけないようにしてます。

空気感も大切に

──接客以外に心がけている点はありますか?

あとはなんだろな......お客さんがいやすい店、居心地のいい店、くつろげる、ほっとできる店にはしたいとは思ってますね。空気感って大事じゃないですか。ピリピリした緊張感が漂う店って行きたくないでしょ? そういういづらい空気を作らないようにはしてます。そうじゃない時もありますけどね。夫婦喧嘩してる時とか(笑)。お客さんの目の前でケンカしなくてもそういう空気感って伝わると思うので、そういうのはなるべく出さないようにしてます。とにかくうちの店に来てくれたお客さんがもう2度と来たくないと思うような店にはしたくないっすよね。そのために頑張ってます。

"内助の功"に助けられた

常に村田さんを支えてきた奥さんと

常に村田さんを支えてきた奥さんと

──開店してこれまで厳しかった時期はありましたか?

自分としては全くないですね(笑)。でも嫁はすごく大変だったと思いますよ。そもそも嫁は自分がどういう料理人かあんまり知らなかったので、自分が今店で出しているような料理が作れるとは思ってなかったはず。独立する時も、嫁には何の相談もなく、突然日本料理の店をやると言ってなだ万を辞めたんです。でも嫁は反対は一切しなかった。

店をオープンして1年間は嫁は会社で働きつつ、店の仕事もしてました。店が18時オープンなので毎日17時半に会社を出て30分以内に店に入って仕事開始。オープン当初は深夜3時くらいまで営業していたので、帰宅するのは4時くらい。そして8時には会社に出勤してたから嫁は本当に大変だったと思いますよ。そんな中でもよく文句1つ言わずにやってましたよね。

だからみんな言うんですよ。「奥さんがいるからあんたは料理人を、店をやれてるんだよ。できた嫁でよかったね」って。だからこのインタビューも自分に話を聞くより、嫁に聞いた方がいいんじゃないすかね(笑)。もっとも、当時のことを苦労だと思ってるかどうかはわかりませんけどね。

ちなみにその間、乳飲み子含め3人の子どもは嫁の母が近くに住んでてずっと面倒を見てもらってたので助かりました。そもそも子育ても、結局自分は仕事をずっとしてたから携わってなかったですしね。

好きだからつらいことなんてない

──仕事のやりがいや魅力は?

村田明彦-近影11

やっぱりお客さんからおいしいと言われること。それだけでしょうね。自分で理想とする料理ができたときの喜びももちろんあります。毎日ありますよ。同じ食材を使って同じ盛り方をしても、日によって今日はすごくうまくできたなと思う時もありますし。でもそれよりもお客さんからおいしいと言われる喜びの方が全然大きいですね。


──料理人をやっててつらいと思うことはないですか?

ないですね。二日酔いの時はつらいですが(笑)。やっぱりこの仕事が好きだからでしょうね。好きだったら楽なんですよね、仕事って。好きじゃない仕事がつらいだけで。仕事がつらいとかいう人はたぶん好きじゃないんでしょうね。ただ、仕事にするなら相当好きじゃないと難しい。趣味の範囲なら商売としてはできないですからね。

だから料理の世界に入って本気で辞めようと思ったことは一度もないですね。前に話した、入ったばっかりの頃に先輩にもみあげ剃れと言われた時だけでしょうか(笑)。でも料理人の中でも料理が嫌いなやつはいますけどね(笑)。

自分は料理以外、やりたいことがないんですよ。その他のことが丸っきしダメで、料理以外頑張れるものがない(笑)。だから料理人になってよかったですよ。料理の道に行かなければ、何になってたかわかんない。ふぐ屋やってた爺さんのおかげですよ。爺さんがいたから料理人になれたから。

村田明彦(むらた あきひこ)

村田明彦(むらた あきひこ)
1974年東京生まれ。料理人。「季旬 鈴なり」主人

幼少期から祖父が東京・門前仲町で営んでいたふぐ料理店で遊んでいたことから料理人を志す。千葉の商業学校卒業後、老舗日本料理店「なだ万」に入社。13年修業を積み、2005年「季旬 鈴なり」開店。2012年に初めてミシュランの1つ星を獲得。以降、2017年まで6年連続で獲得中。リーズナブルな値段で本格的な日本料理が食べられるとあって幅広い層から人気を博している。雑誌やWeb、テレビなど各種メディアでも活躍中。2015年にはミラノ万博に和食の料理人として参加。農林水産省「和食給食応援団」のメンバーとして和食文化の振興、「チームシェフ」の一員として地域活性化にも取り組んでいる。

初出日:2017.03.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの