本部周辺再開発プロジェクト
──現在取り組んでいる町づくりについて教えてください。
Share金沢は確かにうまくいっていますが、これだけのものを次々と作っていくのは土地の確保や資金的にも不可能です。そこで、すでにある町の中に、障害者や高齢者、子ども向けのいろいろな施設を点在させて、町全体をいろんな人が一緒に暮らせるShare金沢のようにしてしまおうというのが、現在取り組んでいる佛子園の本部周辺の再開発プロジェクトです。
10年前から始まったプロジェクトで、コンセプトは「人(の二乗)=街」。老若男女、いろんな人が自然に集まる場所を中心とした町づくりで、人と人が関わることで町になる、住民みんなで町を作っていくという、基本的にはこれまで私たちが取り組んできたコミュニティづくりと同じ考え方ですね。
中心となるのが今年(2015年)4月に完成した「三草二木 行善寺」です。ここでも温泉を堀って入浴施設を作り、近隣住民の入浴料は無料としています。飲食施設も併設していて、近隣住民が気軽に集える場となっています。これまで佛子園が手がけてきた事業同様、日常の中で人のつながりをつくりだすことで地域を元気にしようというのが狙いです。行善寺周辺には障害児が暮らすグループホームやサービス付き高齢者向け住宅、病院などを設置。来年(2016年)秋には、クリニックやスイミングプール、乳児保育園などが入る複合施設「B's」が竣工する予定です。
町の中に学生向けのシェアハウスも作っているのですが、ここに自治室ができて学生や地元の人や私たちが集まってこの町をどうしていくかを話し合うなど、住民自治を積極的に進める場所になっています。これは、Share金沢よりもさらにもう一歩進んでいる点ですね。Share金沢はゆるやかな形で住民自治が行われていますが、ここは市と連携して3000人規模の町を徹底的に作り直そうとしています。これも日本版CCRCの一つのモデルになるんじゃないかなと思っています。
でもすんなりとここまで来たわけではありません。10年前にはグループホームの建設を計画した際、反対する近隣住民も少なからずいました。そこでまずは職員と一緒に町内会の会合や地域の清掃に参加したり、お葬式を手伝ったりと、町の人たちと積極的に交流を図りました。加えて、グループホームに入る知的障害の人の生活の様子をビデオに撮って、町の人たちに見せました。一番時間と労力をかけたのは、この知的障害の人の実態を知って理解してもらうことです。町の人が反対する理由は彼らが近くに住むと問題が起こるんじゃないかと思っているから。ただ闇雲に知的障害者たちを受け入れてくださいと言っても無理なので、知的障害者とはどういう存在で日々どういう感じで生活しているのかをきちんと説明したんです。知的障害者は急に泣いたり怒ったりすることもありますが、そういうシーンも全部見せて、こうなっている理由と、彼らは感情をうまくコントロールできないときもあることを説明すると、ああ、そうだったのかと納得してくれたんです。そうやってグループホームを1軒1軒増やしていったのですが、10年経った今では反対していた人たちが一番の応援団になってくれています。「この10年間でグループホームに入っている知的障害者が問題を引き起こすことなど全くなかったし、毎日おはようと大きな声で言ってくれるし、みんなで公園清掃もまじめにやるし、今ではいないと寂しい。あのとき反対して本当に申し訳なかった」とまで言ってくれているんです。
輪島KABULET
もう1つは輪島市と一緒に取り組んでいる町づくりです。白山市の本部周辺の再開発は「人と人が掛け合わされば街になる」というコンセプトですが、輪島の場合は人と漆が交わるとかぶれてしまう「人×漆=KABULET(かぶれ)」というコンセプトで取り組んでいます(笑)。プロジェクトの名称も「輪島KABULET(カブーレ)」。KABULET(カブーレ)とは町づくりで繋がる"かぶれ人"やイキイキした町の姿を表す言葉です。輪島の人たちと一緒に、工芸品としての漆はもちろん、気軽に触れ合える漆の活かし方をみんなで考え、日常的に漆があふれる町づくり、そして町の歴史や文化を新しい世代に受け継いでいく「人」を主役にした町づくりを目指しています。
根本的なコンセプトはShare金沢や本部周辺と同じで、高齢者や障害を持つ人、子育て世代や若者、移住者、外国人などがごちゃ混ぜになった、みんなで作る町です。このプロジェクトもShare金沢の進化型ですね。Share金沢は4年前のコンセプトなのですが、この4年間でいろいろ勉強したのでもうちょっと規模を拡大して市民全体に波及するにはどうしたらいいかを考えました。
──具体的にはどんな感じで進めているのですか?
空家などすでに町の中にあるものをリフォームして、温泉施設や蕎麦屋、外国人シェアハウス、相談センターなどの多世代交流拠点や住民自治拠点、販売所、障害者就労支援サービス、児童発達センター、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームとして利用する予定です。
そして日本で初めて、移動手段としてゴルフ場などで使われている電動エコカートをナンバーを取得して走らせます。これにより、高齢者や障害者など車を運転できない方々の生活の足としての活用はもちろん、観光客など輪島に関わるすべての人々が積極的に町に繰り出せるようになります。
輪島市の代名詞的存在である輪島塗は高級美術工芸品で一般の人はなかなか買えないし使えませんが、漆塗り自体は4000年というものすごく長い歴史があって、昔は漆でいろんなものを加工していました。それを現代に蘇らせようと、高齢者のサービス付き住宅を皮切りに道路の看板や標識、電動カートも全部漆塗りにしていきます。道具も漆塗りのものをみんなで日常的に使い、いたんだら無償で直す。このように輪島の伝統である漆を身近なものにすることによって、輪島という町をみんなが誇りを持てる町にしたいと考えています。
そのためには漆についてのエキスパートをたくさん育てる必要があります。そこで「輪島KABULET」認証システムを作りました。輪島市の職員であっても漆の質問にきちんと答えられないと輪島KABULET認証はもらえません(笑)。そういう人を増やして、本物にこだわった町づくりを推進していきたいと考えています。
現在、町づくりの核である高齢者支援、障害者支援、子育て支援事業に関する仕事を通して地域づくりに一生をかけてみたいという熱い志をもった方を募集しています。移住者は「緑に囲まれた静かな場所」や「朝市近くの賑やかな場所」など特色あるゾーンからライフスタイルに合わせ、住まいを選び、仕事をつくることが可能です。特に青年海外協力隊の経験者など、地域おこしの経験があり、いろいろな特技をもった若者は大歓迎。私は青年海外協力協会の理事長でもあるし、私自身も元青年海外協力隊員ですので彼らと一緒に輪島を元気にしていきたいですね。
雄谷良成(おおや りょうせい)
1961年金沢市生まれ。
社会福祉法人 佛子園理事長、公益社団法人 青年海外協力協会 理事長、全国生涯活躍のまち推進協議会 会長、日蓮宗普香山蓮昌寺 住職
幼少期は祖父が住職を務めていた日蓮宗行善寺の障害者施設で、障害をもつ子どもたちと寝食を共にする。金沢大学教育学部で障害者の心理を研究。卒業後は白山市で特別支援学級を立ち上げ、教員として勤務。その後、青年海外協力隊員としてドミニカ共和国へ派遣。障害者教育の指導者育成や農村部の病院の設立に携わる。帰国後、北國新聞社に入社。メセナや地域おこしを担当。6年間勤務した後、実家の社会福祉法人佛子園に戻り、「星が岡牧場」「日本海倶楽部」などの社会福祉施設や、「三草二木 西圓寺」「Share金沢」などさまざまな人が共生できるコミュニティ拠点を作るほか、社会福祉法人としては初めてとなるJR美川駅の指定管理も手掛けている。現在は輪島市と提携して町づくりに「輪島KABULET」取り組んでいる。
- 社会福祉法人佛子園 http://www.bussien.com/
- 三草二木西圓寺 http://www.bussien.com/saienji/
- Share金沢 http://share-kanazawa.com/
- 輪島KABULET http://wajima-kabulet.jp/
- 美川37Work http://www.bussien.com/mikawa37/
- 日蓮宗普香山蓮昌寺 http://renjyoji.jp/
初出日:2015.12.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの